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付き合って三年ほどした夏、二人でケニアの草原を訪れた。その頃の私はスタイリストとして、小さな舞台や自主制作の映画などに出演する俳優のスタイリングを任されるようになっていた。
オープンカーの屋根から頭を出して象の群れに夢中でカメラを向けていた彼は、隣にいた僕に向かっ言った。
「僕が動物を撮るのは美しいからなんだ。象の家族は、水の豊かな草原を求めて数千キロを旅する。その途中ハイエナなんかの肉食動物に襲われる危険もあるけど、彼らは生きるために歩くんだ。人間も自分が生きていくために、家族や大切な人を生かすために必死に働くだろ? それと同じさ。優劣なんてつけられない。大きな目的を持って生きる人も動物も、皆同じくらい綺麗だ」
強い陽光に照らされた彼の横顔が余りに綺麗にで、いつか彼は私の前からいなくなってしまうんじゃないかという得体の知れない怖さにとらわれた。
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