月夜のアロエ

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 ケニアに行って一年ほどして、彼は突然私に電話で別れを告げた。 『もう好きじゃなくなった。他に好きな人ができたんだ。だからもう連絡をしないでくれ』  私は呆然とした。つい最近まで当たり前のように一緒にいた彼から、こんな風に突然別れ話を切り出されるなんて思ってもみなかった。何かの間違いだと思った。  電話もメールも通じずアパートを訪ねるも、管理人の老人からつい3日前に解約して出て行ったと告げられた。どこに行ったかと聞いても分からないと言う。  彼とよく立ち寄った行きつけのバーのマスターやゲイ仲間に聞いても、皆知らないと首を振るばかりだった。  余りのショックに仕事を休み三日ほど寝込んだ。驚きの余り涙も出なかった。まともに眠れず、夜中に何度も目を覚ました。信じられなかったし信じたくなかった。あんなに愛し合って多くの時間を共にした彼が、何の説明もなく私の前から姿を消してしまったことが。裏切られたような気持ちで一杯だった。  自棄になった私は仕事に没頭し、毎晩遅くまで飲み歩くようになった。無茶なことをしていると自認していたけれど、何とかして彼の影を振り払いたかった。記憶をなくすほどウィスキーを飲み、シャワーの水が流れるタイルの上で目覚めたこともある。朝知らない男の隣で目覚めることもしばしばだった。  そんな乱れた日々が半年ほど続き、見かねた友人の一人が私にある真実を打ち明けた。  彼によるとトレヴァーはエイズに罹患し余命一年と告げられ、ロンドンの病院に入院しているという。何で教えてくれなかったのかと責めた私に友人は言った。 「トレヴァーから君には絶対に教えるなと言われてたんだ。君に心配をかけたくない、悲しませたくないからと」  
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