昼過ぎの死角

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親子は手を繋いだまま歩道を歩いてゆく。 私は小走りしてその親子に近づいてゆき、そして声をかけようとした。 すると女の子のほうが少しつまづいてバランスを崩した拍子に、持っていたクマのぬいぐるみを落とした。 女の子はつないでいた手を離し、少し戻りクマのぬいぐるみを拾いに来る。クマのぬいぐるみは私のすぐ目の前にあった。 女の子はしゃがみクマのぬいぐるみを拾おうとする。しかし、その手は何度も空振りし、アスファルトに触れるだけ。そして、その目は。 ようやく女の子の手がクマのぬいぐるみに触れる。そして優しく抱き上げる。 彼女は一度も目の前にいる私のほうを見ようとしなかった。 いや、見えないのだ。彼女の目はほとんど閉じているような状態。 盲目だった。 やがて母親が近づいてきて彼女に声をかけ、そして手をとり私に向かって軽く会釈した。 親子は私に背を向け、手をつないだまま歩き始めた。 私はただ茫然として、声をかけることもなく、追いかけることもなく、その二人の悲しみが見え隠れする背中を見送るだけだった。 ーおわりー
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