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このスーパーマーケットで仕事をするのは今日で三回目だった。すでに店内のこと、どの棚にどういう商品があるとか、監視カメラの死角になっている場所はどこかなど、すっかり頭の中に叩きこんでいた。
そう今日の午前中も万引きした人間を発見し、店の外に出たところで声をかけ店の事務所に連れていった。万引きした人物は中年の独身男性だった。一ヶ月ほど前に仕事をクビになり、次の仕事がなかなか見つからず、貯金は減る一方、イライラもあり、つい万引きしてしまったということだった。不景気な世の中、気持ちはわからないでもないが、犯罪は犯罪、家族はいないようなので警察を呼ぶことになった。
私は時々、棚の商品を手に取りながらも注意深く、周りの状況も把握する。今のところ、挙動不審な人間はいない。スリルを味わいたいがために万引きをする中学生の悪がきなどもいない。
しかし一人だけ気になっている人物がいる。
それは小さな女の子を連れ店内をうろつく、その母親らしき女性だった。年齢は三十前後だろうか、細身で背丈も女性にしては高いほう、顔立ちも整い美人といってよかった。だが表情がどこか暗い。そして時々、きょろきょろ周りを見たり、先ほども天井にある監視カメラをじっと見ていた。
女の子のほうは四、五歳くらいだろうか、髪を肩くらいまで伸ばし可愛らしい顔をしていた。母親と手を繋いで歩き、空いたほうの手でクマのぬいぐるみを抱きかかえていた。
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