昼過ぎの死角

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まさか子供の前で万引きなんかしないだろう、とは思うのだけど何故か目が離せない。とりあえず他に怪しい人物もいないので、私は距離を取りつつその親子のあとをつけた。 親子は店の中程あたりにやってくる。そこは缶詰めや健康補助食品などが置かれている棚の前だった。そして監視カメラの死角になっている場所でもあった。 私は物陰に隠れて様子を伺う。母親が持っている買い物かごの中には一応、いくつか商品が入っているようだった。 頼むから私の思い過ごしであってほしい。 しかし私は発見してしまった。母親は周りを注意深く見渡し、近くに店員や他の客がいないのを確かめると、ビスケットタイプの健康補助食品をひとつ取り、それを素早くコートのポケットに入れたのであった。 確かにポケットに入れた。万引きをした。この目ではっきりと見た。 幸いというか何というか、子供は母親が万引きをしたことに気付いてはいない様子だった。 やがて親子はレジに並び、買い物かごの中の商品を精算し始めた。 今ならまだ間に合う。ポケットの中に入れた商品をきちんとした形で購入して欲しい。子供の前で私も母親を捕まえるなんて嫌だった。 だけど願いはむなしく、母親はそのまま精算を終え店の外へと出ていった。 その時点で万引き行為は成立した。どんな言い訳も通用しない。 私は店の外に出て、その親子を追いかけた。致し方ない、私だって仕事なのだ。
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