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第3章 7 ジョバンニへの嫌がらせ その2
「おい……ロザリア。お前、本当にそんな恰好でデートするつもりなのか……?」
ジョバンニがかなり引いた視線で私の事を上から下までジロジロと見渡した。
「そうだけど? 何? この格好に何か文句でもあるの?」
腰に両手を乗せ、私はジョバンニの前に立つとフンと胸をそらせた。
実は今の私は上下のトレーニングウェアを着ているのだ。
「い、いや……文句と言うか……どう見てもその恰好、デートに着る服じゃないよな?」
「何でよ? この服装こそ、これからデートするのに最適な恰好は無いんだよ? それよりも私が逆に尋ねたいよ。そんな動きにくい恰好でデートなんか出来るの?」
私はジョバンニをチラリと一瞥する。
「え? この服装のどこが動きにくいって言うんだ?」
ジョバンニは自分の来ている服を見ると首を傾げる。
テーラー型の襟に紺色の膝丈までのフロックコートに、真っ白なズボンの裾は膝まである皮のロングブーツの中に押し込まれている。いやはや、見ているだけで暑苦しい恰好、この上ない。
それにしても……。
私は笑いをかみ殺すのに必死だった。まさかこんな正装した格好でモップ掛けをしていたなんて。使用人さん達は相当困ったに違いない。
「何だ? ロザリア。そんな奇妙な顔で俺の事を見て……あ、さてはこの俺の決まっている姿に見惚れているな?」
「は? 誰が?」
はっきり言ってまったく似合っていない。まるで身の丈に合わないレンタル衣装を周囲の反対に押されつつも強引に着替えてきたようにしかとても思えなかった。だがある意味、傍から見ると滑稽なのでここはあえて黙っていることにした。
「よし、それじゃデートに行くわよ。あ、ついでに言うと私は今日一切お金を出すつもりはないから。手ぶらで行くからね」
「ぐ……っ」
それを聞いたジョバンニの顔が不機嫌そうに歪む。あ、やはりこいつめ。私にお金をださせるつもりでいたんだな?
「あら何さ。その不機嫌そうな顔は。嫌なら行かないから。1人デートでも何でもして頂戴」
そして部屋に戻ろうとして……。
「あーっ! ごめんごめんっ! 大丈夫っ! 今日は父さんからお金を預かって来てるから何でもご馳走するし、好きな物を食べさせてあげるよ!?」
「……は?」
何とジョバンニはデート費用を親から貰って来たのか!?
それをデート相手に言うとか……どんだけ間抜け男なのだろう!
私は余程冷たい視線でジョバンニを見ていたようだ。何故かジョバンニは身体を小刻みに震わせて、怯えた目で私の前に立っているのだから。
「ふ……」
私は笑った。
このジョバンニの腐り切った性根を正すには今日はいい機会だ。徹底的にしごいてやろうじゃないの。世の中はそんなに甘くないって事をね!
「よし、それじゃジョバンニ。とりあえずこの町一番のパークまで行くわよ!」
「うん。パークか。あそこは湖もあるし、デート場所には最適だしな?」
何故か嬉しそうにニコニコしているジョバンニだが、一体どんなデートを考えているのだろう?
言っておくけど、私のデートは甘くないからね。
「よし、それじゃ行くわよ! ジョバンニッ!」
そして私は身を翻して駆けだした。
「え? ええ~っ!? ま、待ってくれよロザリアッ!」
ジョバンニは私の後を情けない声をあげてついて来るのだった――
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