第3章 8 ジョバンニへの嫌がらせ その3

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第3章 8 ジョバンニへの嫌がらせ その3

 タッタッタッタッ……  運動靴を履いた私は軽快に町の中を駆けてゆく。 身体は以前に比べ、見違えるように痩せたし、筋肉もついたから走りやすい事このうえない。 そしてそんな私の後ろから荒い息を吐いて真っ赤な顔でハアハア言いながらついて来るのはジョバンニだ。 「全く情けない男ね」 軽快に走りながらヒイヒイ喘いで走るジョバンニをチラリと振り返った。 でもあんなフロックコートに皮のロングブーツでは走りにくいかもしれないが……今まで散々ロザリアを馬鹿にしてきたのだ。 挙句の果てには死ねばいいとかセレナに毒薬を渡してくるような男なのだ。これくらいやっても罰は当たらないだろう。 結局ロザリアの屋敷からパークまで約2㎞の距離を私とジョバンニは走り続けた―― **** ――30分後 私たちはパークに着いた。12時まではまだ30分程時間があるが、パーク内の芝生ではシートの上でランチを食べている家族連れや友人、カップル連れが多くいた。 彼らは木陰で思い思いの休暇を楽しんでいる。 「フフ……こういう光景はこの世界も日本も変わりないかな~」 小さい子供たちを連れた家族を見て、まだ双子の弟妹が小さかった頃の事を思い出していた。 あの頃は年の離れた双子達を連れて小さいときは良く土日はお弁当を持って近くの公園に遊びに連れて行ってあげてたっけな~。 「な、何だ? ロザリア。にほんって何の話だ?」 そうだった。今ジョバンニと公園に来ていたんだっけ。すっかり忘れていた。 全くジョバンニのせいで折角日本への思い? をはせていたのに邪魔されてしまった。 ムカムカする気持ちを抑えてジョバンニに命じた。 「ねえ、ジョバンニ。喉が渇いたからパーク内の湖の傍にあるジューススタンドへ行ってフレッシュジュースを買って来てよ。そうね〜レープフルーツジュースがいいかな? サイズはMでよろしく」 「わ……分かった……よ……ハ~ハ~……グ、グレープフルーツジュースだな……?」 肩で荒い息を吐きているジョバンニはフラフラになりながらフロックコートを脱ぐと近くの木の枝に引っ掛けた。 「うん、そうよ~。なるべく早く買って来てよね。10分以内に戻って来ないと私は帰るからね」 「ええっ! そ、そんなっ! 行く、行くってば!」 ジョバンニは踵を返すと猛ダッシュでパーク内を駆けてゆく。必死で走って行くジョバンニの後姿を見ながら私は首を傾げた。 「それにしても何故ジョバンニはあんなに必死になって私とデートを続けようとするのかな? さては父親に何か言い含められているのかも」 うん。その可能性は大いにある。 私はいつジョバンニと婚約破棄を言い渡そうかタイミングを見計らっている最中なのだから。きっとジョバンニの父親は私についての情報を何か掴んでいるに違いない。 その時背後で誰かに声を掛けられた。 「あれ? そこにいるのはロザリアちゃんじゃないか?」 「え?」 背後を振り返ると、露天商のナッツさんだった。 「あれ~ナッツさんじゃないですか? こんな処で何をしているんですか?」 いつもの彼は茶色い帽子、白いYシャツに茶色い前掛け付きのエプロンをして露店の仕事をしている。 それが今日は茶色のベストにサスペンダー付きの縦縞の茶色いズボン姿だった。 「だから俺はナッツって名前じゃ……まあ、いいか。ところでロザリアちゃんはここで何をしているんだい?」 にこやかに話しかけて来るナッツさん。 「はい、婚約破棄予定の相手と最初で最後のデートに来ているんです」 「ええ!? そ、それはいろんな意味で衝撃的な話だね?」 ナッツさんは目を白黒させた。 「ええ、そうなんですよ。折角のお休みの日、私は自由に過ごしたかったのにこうして無理矢理会いたくも無い男に付き合わされているわけです」 ため息をつく。すると……。 「そうか……でもそんなに嫌な相手なら、・いっそ俺とデートしようか?」 ナッツさんは意外な事を言ってきた――
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