プロローグ 禍は、ある日突然やってくる

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プロローグ 禍は、ある日突然やってくる

パアアーンッ! 良く晴れた青空の元、乾いた音が響き渡る。 え……? 何だろう……? 右手の平がジンジンする……。 突然の手の痛みに顔を上げた私は仰天してしまった。 何と目の前には緑の瞳に金色の髪の美少女が左頬を抑えて目に涙を浮かべている。良く見ると頬は赤く腫れているじゃないの。 え? ちょっと待って? 痛む手のひらに頬を赤く腫らして涙を浮かべる可憐な美少女…… これって……私がこの美少女を引っぱたいたって事……? 私は呆然とその場に立ち尽くすのだった…… ****  月曜日の朝7時―― 「唯ー! 湊ー! 起きなさーい!」 階段の下からお玉を握りしめた私は高校生の双子の弟妹に大きな声で呼びかける。 シーン…… 「全く……あの子達め……! こっちが起こしに行かないと絶対に起きないんだから!」 お玉を小皿の上に置くと、ムスッとしながらわざとドスドス音を立てて階段を登る。まずは弟、湊の部屋の前に立つ。 す~っと深呼吸して…… 「こらぁっ! 湊! いい加減に起きなさい!」 ガチャリとドアを開けて大声で叫び、部屋のカーテンをシャッと開ける。それでも湊は布団を被ったまま出てこない。 「いい加減にお・き・ろ~っ!」 布団を引っぺがすと弟は何と今度は寝袋の中に丸まっているではないか! 「起きなさいってばっ!」 それでも起きない。よし、かくなるうえは最終手段……エプロンからポリ袋を取り出し、フウフウと息をはいて袋を膨らませ……それを湊の頭上で叩くっ! パアンッ! 物凄い音を立てて袋は破裂。 「うわああっ!?」 これにはさすがに驚いたのか、ガバッと湊は飛び起きた。 「どう? 目が覚めた?」 「ね、ね、姉ちゃんっ!! 何すんだよっ! それが二十四歳の女がやることかよっ!?」 「うるさーいっ! 四の五の言わずにさっさと起きなさいっ! 何時だと思ってるの! どうせ遅くまでゲームして遊んでたんでしょう?」 湊のベッドにはスマホが転がっている。絶対に深夜までアプリゲームで遊んでいたに違い無い。   「分ったよっ! 起きるから……着替えるんだから早く出てけよっ!」 湊に無理やり背中を押されて追い出されてしまった。 「ふう……次は唯か」 私は隣の部屋に移動し、ドアをノックした。 「唯~起きなさーい」 「……」 しかし、全くの無反応。 おのれ……さてはまだ寝てるな? 女の子なんだから少しは忙しい姉を手伝ってやろうと言う気持ちはないのだろうか? 「唯っ! 起きなさいよ! 少しはお姉ちゃんを手伝ってやろうとか言う気持ちは無いわけ!?」 ガチャリとドアを開けてカーテンを開け放つと…… 「きゃあっ! カーテン開けないでよっ! お肌が焼けちゃうでしょっ!」 唯は布団を被ると喚いた。 「何がお肌が焼けちゃうよっ! あんたまだ17さいでしょっ! 早く起きなさいよっ!」 「分ったってば! 起きるっ! 起きますっ!」 とうとう唯は観念したのかベッドからはい出てきた。 「唯、それじゃ降りて来るのよ?」 その時…… ごりっ! 「いったーい!!」 なにか堅いものを踏んづけてしまった! 「何よ、お姉ちゃん! うるさいなあっ!」 ベッドの布団を直していた唯が文句を言ってきた。 「それはこっちの台詞よ、唯。駄目でしょう!? 床の上にこんなもの落として……踏んづけちゃったじゃないのっ!」 拾い上げながら唯を注意する。 「指輪だ……」 それは何の飾りっ気も無いシルバーリングだった。 「ねえ、唯。この指輪どうしたの?」 「え~知らな~い。あ……でもそう言えば、昨日友達から貰った本から何か転げ落ちたような……」 唯に見せるも首を傾げる。 「ふ~ん……まあいいわ。とりあえず早く下に降りてきなさいよ」 無意識のうちに指輪をスカートのポケットに突っ込みながら、急いで階下へと降りて行った―― **** 「ふう~……朝は戦争だわ……」 双子の弟妹に後片付けと戸締りをお願いし、駅へと向かって速足で歩く。 私の名前は上野里香、24歳。北海道に転勤になった父の後をついて行ってしまった母のせいで、日々OLしながら高校生の双子の弟妹の世話に明け暮れる日々…… 「ああ……これじゃ今に彼に振られてしまうかも……」 私には付き合って三年目の彼氏がいるのに双子たちのせいでデートも殆どままならない。 「おの……私が振られたら絶対あの子達のせいだからね……」 それでも世話を焼き続けるのは年が7歳も離れて可愛いからなんだけどね。 その時―― クシャンッ! 鼻がむずがゆくなって、くしゃみが出てしまった。 「う~ティッシュティッシュ……」 がさごそポケットを探し、ティッシュペーパーを一枚取り出して鼻を拭いたとき、ポケットから何かが転がり落ちてきた。 「え? 何これ……?」 慌てて拾い上げるとそれはさっき唯の部屋で見つけた指輪だった。 「あ……まずい、うっかりして持ってきちゃったんだ……でもなんか地味な指輪だな……」 そこで何となく、いや、本当に何となく私は指輪をはめてみた。 「おお! ぴったりっ!」 しかし突然、私の視界がぐにゃりと歪む。 次の瞬間―― *** パアアンーッ! ジンジン痛む手の平と、目の前に立つ頬を腫らした美少女を前に私は呆然と立ち尽くすのだった――
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