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「徹夜ステーション、徹夜ステーション…」
陸攻がふと目を覚ますなり耳にしたのは、軍人に限らず大概の者が何とも変梃なと内心苦笑するであらう、誰がどう聞いても驛の構内放送。
ステーションと明言している事からも其は明らかであらう。
いつの間にか寄りかかっていたらしい運荷筒のやうにぶっとい円柱に沿う形で立ち上がると、陸攻は辺りを隈無く見渡した。
即座に判った事が1つ。
如何なる理由からか、つい先程迄隣にいた筈の一重とラミアスの姿は見当たらない。
滅多な事では外さない魔紅石の填まった銀製の指輪…
マルーン姫の別荘を兼ねた、テイルウィップ辺境伯夫妻の承認を経て正式に陸攻へと譲られた宝物の指輪…も、己が右手人差し指に填まっていない事に気付く。
因みにユリネとの婚約指輪は勿論いつもの指に填まっていた。
仮に、仮に、仮にの話だが、其が見当たらないと知った陸攻が電光石火の速さで執る行動は十中八九割九分九厘……
「どうなっているんだ、一体?
鐵源郷の驛なら、列車同士の世間話が聞こえてくる筈だが…
…地下道に居るのか?」
ふと呟く陸攻。
自分が今居る場所が驛であると知るや、早くも冷静さを取り戻しつつあるのが如何にも彼らしい。
そんな陸攻から少し離れた場所を、様々な年格好をした様々な人種の老若男女が通り過ぎて行くのであった。
どうやら今居る通路は一方通行であるらしく、皆一様に同じ方向へと歩いており反対側から歩いてくる者は唯の1人も見当たらない。
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