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深夜一時半過ぎ。居酒屋のバイトが終わり、店を出た大学三年生の早河イツキは大きく伸びをしてから、家とは反対方向に歩き始める。
特に深い理由はない。なんとなく、散歩したい気分だったイツキは、いつもと違う道を選んだ。
淡い月明かりに照らされながらイツキは、商店街の近くにある、木々が生い茂る公園に足を踏み入れる。辺りに人は誰もおらず、街灯は少ない。それでもイツキに不安はなく、深夜の散歩に胸を高鳴らせている。
公園を抜けて、真っすぐ畦道を進むと、赤い鳥居がイツキの目に飛び込んできた。だが、その近くに神社はなく、大きな鳥居の後ろには雑木林が広がっている。
「ん……? なんだあれ……」
鳥居の上に、何かが乗っかっている事に気がついたイツキは首を傾げた。ゆっくり鳥居に近づき、それが人だと分かると、彼は息をのんだ。
大正時代を思わせる格好をした、独特の雰囲気を纏っている男が腕を組み、鳥居の上に立っている。
今まで霊的なモノなど目にした事はないが、それらの存在を信じているイツキは内心、焦った。早く目を逸らさなければならない。頭ではそう分かっていても、その綺麗な男から目が離せずにいた。
視線に気がついたのか、男がイツキの方を見る。男はイツキと目が合うと、ニヤリと笑い、地上に降り立った。
男はイツキより背が高く、彼をじぃと見下ろしている。
イツキが一歩、後退ったのと、男が動いたのはほぼ同時だった。男はイツキを肩に担ぎ上げると飛び上がり、鳥居の上に着地する。
「人間! ここから降りたければ、供物を捧げよ!」
鳥居の上に立たされ、呆然とするイツキに男は手を差し出す。
「供物……?」
「そうだ。最高級の供物を捧げよ」
「えー……」
イツキは困惑しつつ、視線を地面に向ける。飛び降りれば少なくとも骨折は免れない高さに、どうしたものかと考えた。
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