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イツキが手に持っているビニールの手提げ袋の中には、居酒屋の店主からもらった、パック容器に詰められた鶏の唐揚げがある。供物になりそうな食べ物は今、それだけだ。
男の期待の眼差しを見る限り、何かを差し出さないと、ここから降りられそうにない。そう判断したイツキは渋々、袋からパックを取り出し、鶏の唐揚げを献上した。
「なんだこれは……」
露骨に残念がる男にイラっとしたイツキは、爪楊枝に刺した唐揚げを突き出す。
「騙されたと思って食ってみろって。そんで早くここから降ろせ」
そう言いながらイツキは、男の口の中へ強引に唐揚げを突っ込む。男は目を見開きつつも、素直に唐揚げを咀嚼する。
「旨い……なかなか悪くない供物だ」
「だろ?」
男は目を輝かせ、イツキから爪楊枝を受け取ると、今度は自ら唐揚げを口にする。無邪気に唐揚げを頬張る男の姿に、イツキは小さく笑う。
「てか、幽霊って食事もできるんだな」
ふと、そんな疑問が頭に思い浮かんだイツキは、思わずそう口にした。
イツキのその言葉に、男はムッとする。
「幽霊だと? 我はこの鳥居の神ぞ。そんな低俗なモノと一緒にするな」
「……鳥居の神ってなんだよ?」
「鳥居の神は神だ。ところで君は食べないのか?」
説明せずとも分かるだろう。そう言いたげな顔で男は話を流すと、爪楊枝に刺した唐揚げをイツキの口元に寄せる。
「オレが食べてもいいのか?」
「ん? 元々は君のモノだったんだ。何も遠慮する事などないだろう?」
男の言葉に若干、戸惑いつつもイツキは唐揚げを頬張った。
「うん。やっぱり美味しいな」
「うむ」
唐揚げの美味しさと、この訳が分からないおかしな状況に、イツキは自然と笑みがこぼれた。イツキのその表情に、男は満足そうに頷く。
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