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片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
つまり話の内容はこうだ。片思いの相手、朝霧くんの偽装彼女になって欲しい。
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遡ること2時間前ーー私は部長から頼まれた仕事を終え、報告に行くところだった。入社5年目ともなれば会議室への道順も足が覚えており、すれ違う社員も顔馴染み。
「朝霧くん、お疲れ様」
正面から歩いてくる同期の朝霧くんに軽く手を振る。
「ん? あぁ、お疲れ。今日も残業?」
「残業はお互い様でしょ。私はこれを提出して上がり」
「そっか」
「朝霧くんはまだ上がれなそうだね」
そう言うのも彼は沢山の資料を抱えていた。同期の中で抜群の成績を上げる朝霧くんは重要な案件を任せられていると聞く。私みたいに後輩がやり残した仕事を処理する為に残業しないだろう。
「まぁ、日付けが変わる前には帰れるかな」
はは、と乾いた笑いに疲れ気味な笑みを添える。そんな表情を向けられ思わず次の言葉が口をつく。
「私で手伝えることがあれば言ってね」
「え?」
提案に朝霧くんは目を丸くした。所属部署が違えば業務内容も異なる訳だし、いきなり手伝うと申し出られ困らせてしまったか。
「あ、ほら、こう見えて細かい作業は得意なの!」
慌てて補足。すると今度は柔らかく微笑み返される。
「町田の仕事は丁寧でミスが無いって上司が言ってた。何かお願いしたいことがあれば遠慮なく頼むよ。それより早く帰ってプライベートを楽しめ、今日は金曜日だぞ」
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