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エレベーターの到着を待つ間、朝霧くんの取り乱した声を背中に浴びる。
「い、いや、俺だけの問題じゃないし!」
とか。
「会わせないって訳じゃなくて、順序っていうのがあるだろう!」
など。
一体どんな話をしているのか? 見当もつかないが、何故だか朝霧くんの声がどんどん迫ってくる気がする。
「待って!」
そしてエレベーターの扉が開き乗り込むと、息を切らせた朝霧くんが滑り込んできた。
「ま、町田! 明日、暇?」
いわゆる壁ドンと言われる姿勢で尋ねられる。あまりの勢いに驚き、書類が足元へ散らばっていく。
「特に予定はないけど……」
「デートは? しないの? 食事の約束とかない?」
「いや、特に……というか誰と?」
「誰って彼氏だろ。町田は好きな奴がいるんだよな?」
えぇ、まぁ、目の前にーーとは流石に言えず。にしても、この体勢は非常に不味い。狭いエレベーター内で密着されれば否応なく意識してしまう。
頬の熱さを気取られたくないので書類を拾う真似して俯く。と、心なしか寂しそうな溜め息が降ってきた。
「俺を助けて欲しいんだ」
「助ける?」
「1日だけ、俺の彼女になってくれないか?」
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