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「彼女の振りをするって、具体的に何をしたらいいの?」
場所は変わり、朝霧くんがよく通うバー。マスターが良い人で、残業で遅くなった時などは軽食を作ってくれるのだと店内を紹介されるも明らかに私は浮いている。お客さんはみんなオシャレをしており、優雅にグラスを傾けていた。
雰囲気が良すぎて居心地が悪い。私は前置きせず要件を切り出す。
「私で出来ることなら朝霧くんの力にはなりたい。でも上手くやれるかは分からない。彼女役ならもっと適任がいるんじゃないかとも思う。まぁ、今日の明日だと私くらいしか掴まらないのかもしれないけれど……」
本心では頼られて嬉しい。少なからず嫌いな女性に恋人の真似事をして欲しいと言わないだろうし。ただ、こんな本音を全面に押し出したら引かれる。
「町田、先ずは飲まないか? いきなり母に会って欲しいとか言っておきながら何だが、乾杯しよう」
彼の合図で私の前にカクテルが置かれた。
「カシスソーダ。町田、好きだろう?」
「覚えてくれてたんだ?」
「新入社員の歓迎会の席で町田のグラスを倒して、ワンピース汚したよな。そうしたらカシスソーダ好きなので大丈夫とか、良く分からないフォローしてくれたんだ」
「良く分からないって、ひどいなぁ」
拗ねた態度で一口含む。ちなみに本気で拗ねてはいない。なんなら私との思い出を語ってくれてニヤけてしまいそう。
「場の雰囲気を悪くしないよう振る舞いつつ、俺も気遣ってくれる町田を魅力的な女性にだと思った。今更だけどさ、あの時はありがとう」
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