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〈続いて次のニュースです。●●海岸にて、長い刃物のようなものを持った不審な男が発見されたとの情報が入りました〉 「あらやだ、●●海岸って近所じゃない」  朝。朝食を食べ終わり、学校に向かうため着替えをしていた僕に母親が言った。 「えっ?」 「だから●●海岸。ほら、今ニュースに出てるわよ」  母親の言葉につられてテレビを見やる。  そこには、昨日タカシと一緒にいた海岸が映し出されていた。 〈この海岸では数年前から同様の情報が何件も寄せられており、付近の住人によれば……〉 「いやだわあ、不審者だって。ここら辺も物騒になってきたわね。アンタもあまりあそこには近づかないようにしなさいよ?」 「別に大丈夫でしょ」 「そんなことないわ。いいからあそこには行ったら駄目」  ●●海岸は、近所に遊び場が少ない地元において、貴重な場所だった。  小さいころから何度も通っているし、危ない目にあったことなんて一度もない。  もう中学3年生なのに、と舌打ちを口中で打ち消す。 「……」 「なに不貞腐れてるのよ?」 「別に」  結局、タカシは穴のなかにいた。  何とも言えない気まずそうな彼の表情を思い出す。 『タカシ、そろそろ帰ろうか』 『ああ』  穴の中で膝を抱えた友人の姿は、どこか違った人であるかのように僕には見えた。 『なにか条件がずれたのかもしれない』  別れ際、タカシが発したその言葉は、ひどく情けないもののように聞こえた。 『条件?』 『ああ、きっと穴の状態とか、なにか些細な変化が原因でタイムトラベルができなくなったんだ』 『……』  僕はそれに対し何も答えなかった。  答えられなかった。  友人であると同時に尊敬の対象でもあったタカシが、よく言えば身近に、悪く言えば堕落してしまったかのように感じられて、僕は僕で自分の心情整理に忙しかったのだ。 『それじゃあ、また明日』 『おう、またな』  今日、タカシはどのような顔で学校に来るのだろう。 「行ってきます」 「はい、行ってらっしゃい。今日はまっすぐ帰ってきなさいよ」  ふと、そんなことを思った。  玄関で靴を履き、扉を開けて外に出る。  いつものように潮の香が鼻先をくすぐった。  タカシになんて声をかけようか。そんなことを考えながら僕は自転車にまたがった。  なんとなくベルを二回鳴らす。 〈とのことでした。加えて、どの不審者も着物を着ており、目撃者によれば『まるで江戸時代の人のようだった』と述べられていることから警察は……〉  その行為に意味はない。   クゥー、クゥー。  遠くのほうからカモメの声が聞こえた、気がした。
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