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「つまりはこういうことさ」
潮風で、長い髪をたなびかせながらタカシが言う。
学校一のイケメンである彼はどんな髪型でも似合っていて(僕が同じ髪型なんてしようものなら、きっとみんなから気持ち悪がられるに違いない)、それがとても格好良かった。
「例えば電子レンジ。中に入れたものが温まる【仕組み】なんて、まさかわからないだろう?」
僕は黙ってうなずく。
普段から断定口調が目立つタカシだったが、不思議と嫌な気持ちになったことはなかった。
「俺だってそうだ。でも使える。そしてこれは電子レンジに限った話じゃない。世界は【仕組み】がわからなくても使えるもので溢れているんだ」
視線を目の前に移し、タカシが続ける。
僕もそれにつられる。
眼前に広がる大きな海と、その上空を飛ぶ数羽のカモメ。
クゥー、クゥー。ザァー、ザァー。
世界は今日も平和だった。
「……自分でもなんで発見できたのかはわからない。でも見つけた。いや、正確にはたまたま見つかった、そう言ったほうがいいのかもしれない」
「? なんの話?」
「去年の話さ。その日も今日と同じように静かだった」
タカシは超が付くほどのマイペースで、それは話し方にも表れていた。
彼らしい、と僕は思う。
This is タカシ。タカシ is タカシ。
「去年ってことは、中2のときってこと?」
「ああ」
「そのときなにがあったの?」
「……特に理由はなかった。なんとなく、俺は砂浜に穴を掘っていたんだ。人ひとりが優に入れる大きささ。そして、俺はそこに入った」
「うん」
「だいたい30分ぐらいだったと思う。正確にはわからないが、およそ30分。それぐらいの時間が経ってから俺は穴から這い出たんだ。そうしたら……」
「そうしたら?」
ゴクリ、とタカシの喉仏が上下に動いた。
なんとなく僕は身構える。
クゥー、クゥー。ザァー、ザァー。
「江戸時代にタイムスリップしてたんだ」
タカシが言った。
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