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「タイムスリップ?」 「ああ」  思いがけない言葉に思考が停止する。 「そんなこと……」 「ないわけがないんだ。電子レンジと同じさ。実際、俺は何度もタイムスリップをしている」 「……」  僕の言葉を遮ったタカシが勢いそのままに続ける。  「俺だってわけがわからない。なんで穴に30分潜っただけで江戸時代に行けるのか……、その【仕組み】は皆目見当がつかないさ。でも行けるんだ。電子レンジと同じだよ。【仕組み】がわからなくても使えるのと同様、【仕組み】がわかっていなくても江戸時代に行くことはできるんだ」  ほら、とタカシが指をさした方向に視線を移す。  そこには、話に出てきた穴がぽっかりといった様子で口を広げていた。 「俺の掘り方に理由があるのか、それとも場所なのか。もしくは、もっと別の何かが理由なのかはわからない。きっと色んな条件があって、それが奇跡的にかみ合った結果なんだろうと思う。もしかしたら俺以外にもこのことを発見した人がいるかもしれないし、実はたくさんの人が知っているのかもしれない。そしてその逆だって然り、だ。江戸時代からこっちに来ている人がいたって全然不思議じゃない」  そう言ってタカシが立ち上がった。  まさか。そんな僕の思いを振り切るかのようにタカシは歩を進める。  その先にあるものは、 「タカシ?」 「口で説明するより実際に見せたほうが早いからな。俺があそこに入ってから絶対に目をそらすなよ? そして30分……いや、多めにとって1時間、か。それぐらいが経ったら穴の中を覗いてほしい。誰もいないことを確認したら帰っていいから。明日になったら江戸時代の何かをお土産に持っていくよ」  もちろん例の穴だ。 「……タカシ?」 「それじゃあ、また明日!」  このまま行かせてはいけない。二度と会えなくなってしまう。根拠が不明確な確信が突然、怒涛の勢いで、胸内を支配する。止めないと! しかし、なにも言えない。  タカシが穴にたどり着く。  足が、身体が、頭が。 「タカシッ!」  するり、と穴の中に吸い込まれていった。    
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