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20.5
思わず立ち止まる。
数歩歩いて、森さんも立ち止まり振り返った。
夕日を背負い逆光になった彼の表情は何故か切なげで、いつものような軽いノリで聞いている訳では無い事を物語っていた。
自分と一緒にいる事を、森さんは幸せだと言ってくれた。それは仕事のバディとしてだけか、それとも、佐久間くんと野村さんみたいにプライベートも含まれているのか。
改めて関係を見直すには、長すぎる程一緒にいる。
一瞬、混乱した。
彼と一瞬にいる事を「幸せ」か「幸せじゃないか」で考えたことがない。でも、現状に不満がある訳でもなく、幸せかと聞かれたら多分幸せなのだろう。
では、もし森さんがいなくなったら―……?
「ごめん」
口を開きかけた時、彼の方が先に言葉を発した。
「困るよな、いきなりこんな事聞かれても」
そう言って寂しそうに笑う。
「違うんです、森さん!」
思わず僕は駆け寄って彼の腕を掴んでいた。
驚いて身を引く彼を、グッと引き寄せる。
「その…貴方と一緒にいることを「幸せ」か「幸せじゃないか」で考えた事が無かったんです。一緒にいることが当たり前すぎて」
必死になってそう伝えると、彼の不安そうな表情がフッと緩まった。
「それでもし、森さんがいなかったらって考えてみたんですが……やっぱり、想像できませんでした」
今も、貴方の腕を掴む手を離すことができない―…
「これが、佐久間くんと野村さんのような関係なのかは分かりません。でも、今、僕は幸せだと思います。それではいけませんか…?」
すると森さんはぎゅっと目を細め微笑んだ。
「うんん、十分だよ……有り難う」
「森さん、」
ああ、この人は。
普段全くそんな素振りを見せないくせに、そんな事を心配をしていたのか。
僕が森さんの側を離れることなんか、
ある筈無いのに―……
森さんの手を取り、正面から彼を見た。
「ずっと……ずっと、続けられる限り、2人で店を続けていきましょう」
「……うん」
当たり前に思っている事も、時に言葉に出して確認しなければ不安になる。
目の前で嬉しそうに微笑む彼の顔を見て、僕もようやく安心して微笑んだ。
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