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プロローグ
porta fortunaはオフィスが立ち並ぶ街中にある、
カジュアルイタリアンの店だ。
近隣はカフェ、カレー屋、うどん屋、ラーメン屋、
洋食屋、寿司屋など…とにかく飲食店が多い激戦区。その中でこの店は20年以上続いている。新しい店が出来ては閉店していく昨今において老舗と言っていいだろう。決して大きな店ではないが、味は勿論の事、
接客や雰囲気などがいいと評判で長年この辺りの
オフィスワーカーから愛されていた。
その店を切り盛りするのは、今年47歳になるオーナーの森隆信と、46歳になる店長の進藤肇。更にアルバイトの近藤さやかと坂木いずみがいて、この2人はホールスタッフをしている。
森と進藤は同じ調理師専門学校の先輩後輩であり、
森が独立してこの店を立ち上げるまで同じレストランで働いていた。実に20年以上共に働いている事になる。
いつものようにディナー営業を終えたある日、
森と進藤が更衣室でコックコートから私服に着替えていた時の事。
―ヒラリ
「森さん、落ちましたよ」
森のロッカーから1枚の写真が剥がれ落ちた。
進藤がそれを拾い上げ、森に渡す。
「ああ、有り難う」
「懐かしい写真ですね」
進藤は写真を見ながら目を細めて微笑んだ。
それを受け取りながら森もまた、笑みを浮かべ頷く。
写真は、porta fortunaがオープンした時に店の前でオープニングスタッフと撮影したものだった。
少しくすんだ写真には、まだ20代だった頃の森と
進藤、そして今は辞めてしまったホールスタッフの西村今日子と奥珠美が写っている。
因みに奥は店がオープンして数年後、森と結婚するのだが、ここ最近…ちょうど1年前に離婚していた。
「オープンして20年近くなるのか…早いもんだな」
「ええ。あっという間でしたね…」
2人して写真を覗き込みながら束の間、
共に歩んできた過去に思いを馳せる―…
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