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紺野くんと私…。
紺野君と、最近なんとなく話すようになったのは、彼が恒介君の友達だからだ。
別にそれ以外、接点なんかない。
紺野くんはうちの家庭科部の後輩の沢井さんと同じクラスだ。
紺野くんは明るくてクラスでも目立つタイプなんだって沢井さんが言ってた。あたしたちみたいなピラミッドの底辺とは、あまり関わることのない部類の人たち。
きっと目もくれないだろう。チアの子が紺野君のことが好きなんだと沢井さんが言ってた。
そんな沢井さんも、実は紺野君が好きなんじゃないかって思う。
あたしたちがそんな夢見たらダメなんだよ。どうせ見向きもされないんだから。同じ家庭科部の沢井さんの友達の井上さんも、隣で嘆く。
残念だけど、同感。
そう思っていたけど。紺野くんはあれからちょくちょく家庭科部に顔を出すようになった。
入り口から紺野くんの顔が覗くと、沢井さんの顔色が変わる。
あれ、絶対好きなやつじゃん…。
井上さんが沢井さんの横っ腹を肘でつついてる。
「ほら、来たよ。話しかければ?」
そんな話がこそこそと聞こえてくる。
「あれ?恒介は?」
紺野君はそう言って真っ直ぐあたしのところにやって来た。
「昼間はランチしたけど、放課後は顔みてないな。」
あたしがそう言うと、ふーん、何て言いながら、あたしの隣の席に座った。
「え?なに?」
そう言いながら思わず沢井さんの方をみた。沢井さんも、気になってこっちをみてたけど、あたしと目があってあわてて目をそらした。
ほら。こうなるじゃん。気まずいって。こういうやつ…。
「紫村さん、なにやってんの?」
「え?あたし?あたしはカロリー計算だよ。一応ね。」
「ふーん。カロリー計算も大会の項目にあるんだ?」
「違うよ。ついくせで。ていうか、気になるんだよね。自分が作ったやつがどのくらいなのかさ。」
「へー。今日はなんか、作るの?」
「今日は作らないよ。大野先生いないし。」
「なんだ。残念。今日も紫村さんの作ったやつ、食いたかったのに」
なんだよ。そんな調子いいこと言ってさ。ていうか、そういうの、勘違いするだろう。
やめてくれ。あたしらみたいな底辺の奴らは。目が合うだけで惚れちゃうし、そう言われるだけで妄想して勘違いしちゃうんだからさ。
悲しいかな。そういう底辺のレベルで生きてるんだよ。あたしたちは地味にさ…。
恨めしそうな視せんをその横顔に感じながら、その紺野君のまやかしの台詞に、騙されないように、自惚れないように、勘違いしないようにと、ガードを固める。
勘違いしそうだよ。やめてほしい。
誰なんだろ。紺野君の、好きな人…。
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