夏休みの奇跡

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夏休みの奇跡

 そんなあたしの中等部二年の夏休み。  ついに中学生調理選手権大会が行われた。  私たち、ひかりが丘学園の家庭科部の活動の日頃の成果を存分に発揮する日がついにやって来た。  これまでに何度も校内選考会を経て、参加メンバーと、勝負するメニューが検討され、絞られた。  正式メンバーだった私も最終選考チームにのこり、大会の出場権を獲た。メインのシェフはこの私になった。サブに二人、部活のメンバーの沢井さんと井上さんが入ってくれて三人で戦った。  当日の大会結果はというと。  結論から言えば目標だった上位入賞はならず。  某料理教室主催の、キッチンスタジアムで行われた料理の大会は大盛況だった。上位入賞を逃した私たちはいま一歩のところで、七位入賞はなんとか果たした。  金賞、銀賞、銅賞に輝いた中学校の献立は到底かなうものではなかった。  足元にも及ばずとはまさにこの事。  見た目も味もアイデアも。  学ぶべきところがいっぱいあった。 それだけでも今回参加出来た意義がある。  七位になれただけでも、まあ、奇跡みたいなもんだ。  私の中学二年の夏休みはこうして幕を閉じた。  はずだった…。 *  その日の夕方。  いつものように実家のお手伝いで店に出ると。  そこにはいつもの知った顔。  マスクにメガネをやめたから、なんか、裸で立ってるみたいでへんなかんじ。 「よっ。お疲れ。七位入賞おめでとう。頑張ったじゃん。」  いつものように恒介君が夕飯を買いに来た。 「ありがと。恒介くんたちの協力のお陰だよ…。やっと終わった。あたしの毒味も今日で終わりだね。」  そう言いながら他のお客さんの注文を合間に取る。  せわしなく動き、カウンターで袋詰めやレジなんかをこなしていく。  なんとなくそんな会話をしたけれど。いまなんとなく自分で言ったその言葉になんだか軽くショックを受けてる自分に気づいた。  そうじゃん。そうだよ…。きょうで、終わりだ。あたし達…。  そうか。もう、恒介くんたちに試作品の毒味もしてもらわなくて、いいんだ…。  あれ?もう、あたし、ここの娘だって隠す必要もなくなったわけだし?秘密にしてもらわなくていいんだし?あの取引も無しになるし?大会も終わったし?  じゃあ、もうあたしたちが会う理由がなくなるってやつ?  これで、ピラミッドの頂点に君臨する彼と、底辺の私の接点がなくなるのか…。  いつものように買いに来た恒介君はいつものようにメニューをみて。  それっきり黙ってる。  相変わらずいつもみたいにじっとこっちをみて。  今日はマスクもメガネもないから、そんなにじっとみられると、恥ずかしい。いつもは変な格好してんなってみてたんだろうけどさ。  無いから逆に違和感?  そっか。あたし。もう、お弁当もつくってあげなくていいんじゃん。だってもうお店のことも隠さなくていいんだから彼に作る理由がなくなるんだし…。  そう思ったら、なんとなく…。  あれ?なんだろう。  この感じ…。  この、なんか寂しいような、なんかを無くした時みたいな…?  そのうち列の後ろに誠也くんもやって来た。後ろから近づくと、恒介君に後ろから手をのばし、恒介くんに声をかけようとしたその手が止まった。 「あのさ…。」  黙っていた恒介君が私に突然話しかけてきたから。 「ん?」  あたしがお弁当を袋に詰める手を止めてそっちを見た。なんか言いにくそうな顔してモジモジしてる。 「今日、これからお疲れ様会しようぜ。ジュースで」 「え?なに?」 「あー。もう…。なに言ってんだ俺。そうじゃねぇだろ…。」  彼がそうぶつぶつ独り言みたいに言ってる間に、前のお客さんの、品物を渡した。 「唐揚げ弁当三つのお客様、お待ちどう様です。ありがとうございます。」  話を中断してしまったけど仕方ない。この状況だし。  ちょっと不満そうな顔してわたしが接客してるのを黙って見てる。  その後ろでニコニコ見守ってる誠也君にはまだ気づいてないみたいだ。 「だから、あのさ…」  もう一度恒介君があたしをみて口を開くと、また。  横からおじさんが割り込んできた。 「おねぇちゃん、割り箸入ってないよ。」 「あ、ごめんなさい。すみません。どうぞ…」  あわてて頭を下げて割り箸を渡した。恒介君がその、おじさんをジロッと睨み付け、チッと舌打ちした。
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