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恥ずかしすぎてそんな風に誤魔化した。ハンバーグを待ってるおばさんがこっちを見てる。
「あぁ、そっか。じゃあ、後でまた来るから。閉店、九時だったよな。九時にまた来るから。その時な」
そうして真っ赤になった私と真っ赤になった恒介くんが見つめ合うと恒介くんがじゃあ、と言ってくるっと振り返った。
そこには誠也くんがニコニコして立っている。
「なんだよ。いたのかよ。」
「いたよ。」
ニコニコしてなんか言いたそう。
「なんでいるんだよ。黙って後ろに居るなんてさ。」
「え?ボクは普通にお弁当買いに来ただけどけど?ちゃんと並んでたし…。
そしたら前のお客さんが急に告るし?」
誠也くんはニコニコして、真っ赤な恒介くんを見ている。
「なんだよ、ったく…。みんなに言いふらすなよ。」
「言わないよ。しばらくは、黙ってる。しばらくはね。恋が実るといいね。」
「うっせー。」
そのあと、あたしも必死でレジを打って、お弁当を売ったけど、そのあとの記憶なんか、ほとんどない。
そばに居た兄嫁の圭子さんも、顔を赤らめて見て見ぬふりをした。向こうで揚げ物をしていた父さんも、仏頂面で聞こえないふりしてたけど、時々チラチラこっちを見てきた。
なにもその話題には触れずに。
気をきかせた母さんも、今日はイラッとした顔は見せずに、早めに上がらせてくれた。
油臭いからシャワーでも、してきなさいなんて、いつも言わないくせにその日はそんなことを言ってきた。
あたしも照れながらなんでもない顔をして。
さっきまで着ていた油臭いTシャツと半ズボンとエプロンを脱いでシャワーをして身支度をして。
あの日着たワンピースに着替えた。
リップを軽く唇に差し、慣れないビューラーでまた睫をカールして。マスカラを塗った。
いま、すごくドキドキしてる。
彼が来てくれるのを今か今かと待っている。母さんが何度もあたしの様子をみに来てはコソコソと父さんと店の奥で話してる。
ああ。あたし。やっぱり彼のことが好きだったんだ。こんなにも。
彼なんかと結ばれるわけなんかないと思ってたのに。
だってピラミッドの頂点に君臨する彼と、底辺の私が、なんでどうして?どこでどうなった?
今でもなんか、信じられない。
九時を少し過ぎた頃。
玄関の呼び鈴がなった。
「早めに帰ってきなさいよ」
片付けをしていた母さんがぶっきらぼうに店の方からそれだけ言った。
出るとそこには待ちに待った彼がいた。
照れた顔をしてうつむきながら。
「あ、その格好…。」
恒介君が照れた笑いでこっちを見た。
「やっぱ、似合ってんな。それ…。」
あたしは黙ったまま静かに微笑む。
そのままなんとなく歩きだして、なんとなく公園に向かった。
夏休みの最後の日…。
こうして私にこのあと最大の奇跡が起きた…。
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