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恋の味(終)
「あのさ…。」
「うん…」
「俺のお袋の味、お前が引き継いでくれないかな。」
「え?」
「ずっと気になってた。お前のこと。」
「ねえ、お前って言うけどさ。あたし、お姉さんだよ。1つ上だよ?」
「そうだったよな。じゃあ、お姉さんの菜緒さん。
俺はずっと前から菜緒さんがになってた。多分ずっと好きだった。
この店の味も大好きだったけど。
菜緒さんの方がもっと、ずっと大好きだった。
だから。この先も俺とずっと一緒にいてほしい。俺にずっとそばでこの先もうまい料理食わせてほしい。ダメかな。」
「ダメかってさ。あたしたち、まだ中学生だよ?」
「ダメ?中学生じゃ。」
「ダメとかじゃなくてさ。まだ、あたし、つきあうとか、将来とか、そう言うの、よくわかんないよ。」
「でも、俺は好きだから。菜緒さんのこと。」
「あたしだって…」
「あたしだって…、なに…?」
「気になってた。恒介くんのこと。」
「ほらな。やっぱり。そうだと思ってた。」
「うそ?」
「ほんと。」
「うそだ。だって、あたしだって、ついさっき気づいたし。なんか、大会終わっちゃうな、って。なんか、寂しいな。って。」
「さっき?さっきなの?マジかよ。どんだけ鈍感なんだよ。うそだろ?」
「ホントに。さっきなんだから…。
大会終わったから、今日で終わりだなんて言ったとたん、なんかね。だけどこんな風にまさか言われるなんて、信じらんない。うそみたい」
「え?なんで?」
「え?なんでって?。ほら、恒介君とあたしじゃ、全然釣り合わないじゃん。」
「どこが?」
「どこがってさ、だからさ。全部だよ。」
「誰が決めたの?そんなこと。」
「誰ってさ…」
「じゃあ、約束しようぜ。将来大人になったら俺たち、ちゃんと付き合って。将来もずっと一緒にいるってさ。
いいだろ?約束。」
「約束?なにそれ、変なの。」
「そうだ。あの取引さ、結局なしになっちゃっただろ?
弁当屋の娘だって自分で言っちゃったんだし。」
「ああ、そんなの、あったね。」
「だからさ。これ、その代わりの取引。だめ?」
「将来の約束とかって、すごい取引だね。」
「俺は本気だよ?
菜緒さんを誰にもとられたくない。紺野にも俺、渡したくないし。」
「なに?紺野くんて、あの?」
「そうだよ。あいつ、あのあと俺に聞いてきやがった。お前のこと。気に入ったんだって。」
ジロッとまたこっちを見てきた。
「菜緒さんに彼氏とかいるのかって聞かれたし。もしかして、お前ら付き合ってんのか?って聞かれたし。だから言ってやったんだ。俺たち付き合ってるって。いいだろ?どうせそうなるんだし…。だから、あんま、あいつと仲良くすんなよ。あいつ勘違いするから…」
「え…?」
飲み込んだっきり、言葉が出てこない。少しして深呼吸してから。
「なんであたしなの?あたしなんか…。」
「さあね。なんでかな」
「だって、恒介くん、たくさん告白されてたし。
これからだって…。多分たくさんの女の子たちに…」
そう言う私の口を彼の手のひらがふさいだ。
「で?どっちなの?取引は。成立?
俺のこと、好き?嫌い?」
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