恋の味(終)

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 そっと彼の手を離した私の唇が静かに震えながら動いた。 「そんなの…、決まってんじゃん…。 好きに…。」  そう言うか言わないうちに、彼が私に私にキスをした。彼のあったかい唇が近づいてきて、フワッと優しく触れるだけのキス。  契約書に捺印するみたいな軽いキス。  甘い甘い初恋の味のキス。 「取引、成立な。」  恥ずかしい顔が、暗い公園で見えなくてよかった。今、すごく恥ずかしい。今、どんな顔してるのかな。あたし。 「ということだから、よろしくな。明日からも、俺の昼の弁当づくり。」 「あ…」 そうか。  なんだか無くしたものが見つかった時みたいな、ほっとした気分…。  宝物だった大事なものを、やっと見つけた時みたいだ。    夏休み最後の夜に起こった奇跡…  あたしは彼のそんな強引なところにキュンキュンしながら、実は明日から始まる二学期の最初の大きな問題の事で頭がいっぱいになってた。  どうしよう。  結子になんて説明しよう…。  結子に彼を紹介したはずのあたしが…。   彼にふられた結子を散々慰めたはずのあたしが。彼から告白されたなんて。それで彼と付き合うことにしたなんて…。  どうやって説明する?どうやって謝って、どうやって許してもらう?  夏休み最後の夜。いろんな事がありすぎて眠れない夜を過ごした。  あんなに死ぬほど悩んだのに。答えは結局出なかった。  幸せなはずなのに重い気分で二学期を迎えたあたしは、足取りも重くやっと学園についた。  今日は始業式だけだから、帰りにカフェでランチに誘われた。よりによって結子に。よりによって二人きりだ。  これはもう、正直に打ち明けろと神様が私に告げているとしか思えない。  お気に入りのカフェで二人で向き合う。楽しいはずのランチが今日はお通やみたいな気分だ。 「お疲れ様。七位だったんだってね。頑張ったじゃん…」 「うん。まあね…。あの…さ…」  仕方なく重い口を開いた。  さっきから食べ物は喉を通らないし、味もよく分からない。  こんなんじゃ食べられそうにない…。  今、言わないと、タイミングを逃すから。もう覚悟をきめた。先に言おう。 「あたし…」  その後、自分で何て言ったか、よく覚えてない。多分、いっぱいいっぱいで、テンパってた。 「なんか、好きだった」  なんだか支離滅裂なことをいっ ぱいいっぱい並べて。 「そんなはずじゃなかったのに、どうしてかそうだった。ごめん、そんなつもりなかったのに、いつの間にか好きだったみたいで。恒介くんの方から告白されたから、それで。そんなわけないって思ってたのに。」
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