家庭科部のお客様

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家庭科部のお客様

 それから家庭科部に勧誘されて。  あろうことか、気がつけば知らないうちに正式な部員になっていて、あろうことか、気がつけば知らないうちにこの夏行われる中学生調理選手権大会のメンバー候補に選出されてしまっていた。  顧問の大野め、やりやがったな。  ちゃっかりしてて、だけど憎めない。ちょっと独特な雰囲気の女教師、51歳、独身、生粋のアイドルオタクだ。休みがあれば追っかけして全国をあちこち飛び回っているらしい。  中学生調理選手権大会か…。  そんな競えるほど料理の腕もセンスもないのに…。  だっていつも作ってるのはハンバーグや揚げ物や、チキンの南蛮焼きなんだから。それで何をどう勝負しろって言うのよ…。  帰宅部でしれっと帰ってた頃が懐かしい。  そんな不本意に始まった家庭科部での調理実習の時、廊下を通りすぎたあいつらが立ち止まって家庭科室のなかを覗いてきた時には心臓が止まるかと思った。 「お?なんか、いい匂いすんな…」  ノリノリで一ノ瀬大河がポケットに手を突っ込んだまま上半身前のめりになって家庭科室の入り口に立った。  後ろから覗いてるのは、あの応援団長ですっかり日焼けした久住恒介だ。  壁からひょっこり顔だけ出してニコニコしてるのは真壁碧斗。今日も可愛い。  その脇で穏やかに見守る早川誠也。  なんなの?この奇跡のようなシチュエーション。幻だろうか…。  ピラミッドの頂点に君臨する彼らが今、私たちを見ている…!  すると顧問の大野先生が気づいて出入り口に向かった。この顧問、完全にイケメン好きの依怙贔屓丸出しの女教師なのは誰もがもう、承知している。  声が上ずってるのがすぐにわかる。 「あー、君たち、いいところにきた。 ちょっと味見していかない?」  え!なんでそうなる? 「料理のコンテストに出すメニューを今考えててさ。どれがいいか審査してほしい。  作った私たちじゃなくて、一般の意見を是非とも聞きたい!」  なんだ?このいつもと違う表情は。  なんだ?このハートな目は。  なんだ?その上ずった声色は。 「え?いいんすか?マジ?めっちゃ腹へった。」  金髪の一ノ瀬大河が青い目で先生をじっと見たから先生が両手をほっぺに当てて喜んでる。 「ちょうどいいお客様がご来店だよ。 みんな、張り切って頑張ろう!」  彼らはすごいオーラを纏いながら家庭科室に入ってきた。  私たちが料理を作る間、家庭科室の隅っこの席に座って、ワチャワチャと下らない話をしている。  そのうちに一人がふらふらこっちによってきて、調理をしている私たちのすぐ横にたった。  なんだよぉ。緊張して、手が震えちゃうじゃん…。  なんて、多分ちょっとだけ迷惑そうな顔をしてたと思う。だけどその顔を見たとたん絶句!  すぐそこに、あの、久住恒介が立ってこっちを見てるじゃん!  なるべく目を合わさないようにした。こんなに緊張してるのがバレるなんて、あり得ない!仮にも私は1つ先輩なのだ。  すると彼がクールな目をこっちに向けてじっと私を見てきた。 「それ、いつものやつだよな…?」  そう呟いた。  え?どう言うこと?  いま、もしかして私に言った?  なに?いつものやつって…。  わたしが作っていたチキンの南蛮焼き。  これをパイ生地の上に載せて軽くアブって、テリマヨ和風南蛮チキンパイにする。  そんなメニューを私は考案していた。そう。いつものお店で出してた南蛮焼きにアレンジしたもの。そんな安易な考えと惰性でやったばっかりに…。  って?え…?どういうこと?  ぎょっとした顔で思わず彼を見てしまった。  すぐ近くには、あの、久住恒介の眩しいイケメン顔。  まさか…。うそでしょ?うそだよね…。今日はマスクもしてないしだて眼鏡もかけてない。  なんで…? 「あれ?ちがった?」  彼が私にそう聞いてきた。  え?やっぱり私に言ってるんじゃん…!  バレてる?これ、完全にバレてる…?!
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