恋の味(終)

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 一気に畳み掛けるように言い終わって一息ついた。水を一気にお腹に流し込む。  無我夢中で色々言い訳したりして、今の気持ちを打ち明けた。  黙って反応を待つあたしに、結子はただ、黙って聞いていたそのあと、鼻でフッと笑った。  あんなに一晩悩んだのに。  結構、意外とあっさりしたもんだった。 「やっとか…。」  だって…。 「え…」 「だって、そうだったじゃん?最初からあんたたち…」 「え?知らない知らない。そんなこと無い…」 「けどさ?あいつは好きだったよ。最初から。菜緒のこと。」 「え?」 「あのグループデートの日に、二人になって速攻言われたし?」 「うそ?」 「ほんと。けど、あんたが自分で気づいて無いみたいだから、まだ内緒にしろって言われた…」 「なにそれ!」 「なにそれって、こっちの台詞だよ。 なに?今日のグループデートは、 俺は菜緒に頼まれたから来ただけだとか? 菜緒が来るから来ただけだとか? 俺は菜緒さんが好きだから。って? 何なんだよそれ、って。 人が楽しみにして来たっつーのにさ。じゃあ、あたしはなに?ってさ。」 「なんか、ごめん…」 「だから。許さない…」 「え?」 「菜緒が幸せにならなかったら許さないよ。あたし。」  そう言って結子が泣き笑い。あたしもつられて泣き笑い。 「自分の気持ちくらい、早く気づけよ、バカ…」  そう言って結子が優しい顔してあたしのホッペをムニっとつまんだ。 「絶対に幸せになりな…」  その一言を聞いたら、急にお腹がすいてきた。  その日のランチはなんだか特別、甘ったるいような、でも甘酸っぱい味がした。  まだまだ子供同士だったあの頃の私の懐かしい思い出。  このチキン南蛮弁当を見るたびに思い出す。私の甘酸っぱい恋の思い出。  あれから私たちはずっと一緒にいる。  相変わらずの恒介は今日も、毎日のようにお弁当を買いにやって来る。  私は店に立ち、今日も弁当を売る。  もうすぐ私はこの学園の高等部を恒介よりも一足先に卒業する。  この春から私は浪人生の予定だ。  大学受験をあと一年頑張るか、それとも調理の専門学校にいくか。  答えはもうとっくに出てる気がする。  でも、母さんに何て言おう。  大学行くのやめるって言ったら怒るかな。予備校に行くのやめるって言ったら怒るかな。  でも、いいや…。  誰がなんて言っても。今わたしがしたいのは、料理だから。  それに、私には強い味方がいるんだもん。  愛する彼のために毎日美味しいランチを作る。懐かしい甘い恋の味がするあの、懐かしいお弁当。  将来はキッチンカーでそれを売り歩こう。  この恋の味がいっぱいつまった…  この甘い恋の味のするランチボックスを…。その時も、彼はこうして隣にいてくれるのかな…。 おしまい
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