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「ねぇ、いいじゃん…、遠慮しなくていいからさぁ。」
そう言って横に座り肩を抱いてこようとした。
「本当に結構です!ちょっと、やめて。」
「そんなに怒んなよ。仲良くしようぜ?」
肩に回した腕が背中に触れて気持ち悪い。そう思った時。その腕が掴まれた。
「お前ら、なにやってんだよ…」
少しドスのきいた低い声が彼らよりだいぶ高いところから降り注ぐ…。
身長も体格的にも彼の方に分があるのは誰が見ても明らかだ。
割れた腹筋がしゃべる度にピクピク動いて、ガッチリした長い足と一緒に俯く視界に入ってきた。
弾かれたように仰ぎ見るといつも見慣れた顔。恒介くん…。
「あ…。あれ?なんでもないっす。
人違いだった…。」
そいつらはヘラヘラしながらそそくさと逃げていった。
そこには目くじらを立てて怖い顔の恒介が立って見下ろしていた。
短パンの水着を履いて上半身は首からタオルをかけて。背が高いしガッチリしてるし、腹筋がバキバキだし、胸筋も腕の筋肉も凄い。
逞しい、その一言がよく似合う。
本当にこの人、中学生?
思わずこの状況も忘れて見惚れつつ、目のやり場に困ってしまうほど。
すると。
「もー、なにやってんだよ!」
いきなりそんな一言。なんか、怒ってる。
「探したんだぞ。」
「あ…、ゴメン、日向が暑かったからこっちに避難してた…。」
「っったく!あんな奴らに絡まれてさ。
それに、なんだよ…その格好は!」
え…。なんで怒るの?そこ、怒るとこ?
「なんなんだよそれは。中学生の癖に破廉恥すぎるだろう!」
そう言って彼は狼狽えだした。
「そんな格好をしてるからあんな奴らに…。」
って。なんか、すごく怒ってる。
「まるで下着じゃねぇか!」
だって。
「いいじゃん、そういう水着なんだし。」
そう言ったけど、なぜかまだ怒ってる。なんで…?
彼に見せたかったのに…。
彼に見てほしかったのに…。
可愛いねって。綺麗だねって。
そう言われたかったのに…。
彼をドキドキさせたかったのに。
なに?破廉恥って。
言うことはそれだけ?
そうやってさっきから怒ってばっかり。
なによ。その破廉恥ってさ。
せっかく頑張ってこの日のためにお店の手伝いもしてささやかなお駄賃をもらったのを貯めて。毎月のおこづかいも節約して。今日は彼のためにちょっと高い水着を背伸びして買って。この日のためにダイエットもして。入念にお肌のお手入れもしてきたのに。
さっきからさ。
破廉恥って怒ってばっかり。
見せたかったその姿には全然目もくれず。私の姿をちゃんと見ようともしない。さっきから目をそらしてばかりだし。
「もういい!帰る。」
初めての喧嘩…。
涙が止まらなかった。
悔しくて悔しくて。
可愛いねって、ただ言ってもらいたかっただけなのに。
少し大きくなった胸の、その嬉しい谷間を彼に見せびらかしたかっただけなのに。あたしだって女だよってとこ見せたかっただけなのに。
似合ってるよって、ほほを赤らめて照れながら一言そう言ってほしかっただけなのに。
なによ、人をふしだらなやつみたいにさ。破廉恥破廉恥って。破廉恥を連呼して。
「これ羽織ってろよ。」
そう言って、自分の首にかけてたタオルを少し乱暴にあたしに無理やり頭から被せてきた。その顔がなぜか首まで真っ赤になってすごく怒ってる。
こっちもなんだかカチンときた。
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