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恒介くんの部屋で今日もテレビを見たり、一緒にスマホゲームをしたり。
お菓子を食べたり、ただそれだけ。
「菜緒ちゃん夕飯食べてくんだろ?」
下からおじさんの声が聞こえた。たくさん買い物袋を下げて帰ってきた。
おじさんは来るとおとこの料理をしてくれる。今日の夕飯は屋上でバーベキューだった。
「秋だから今日バーベキューな。
ちなみに冬は鍋な!」
そう言って。
下からぞろぞろ職人さんたちも上がってきてみんなでバーベキューが始まった。
女の子はあたししかいないから、事務員のおばちゃんと二人で野菜を切ったり、たくさん動いた。職人さんたちの方が焼くのとかは手慣れてて上手かったりして。
おじさんたちは酔っぱらって、バーベキューグリルを囲いながら陽気に喋ってる。
そんな光景を遠巻きにしてハジッコのベンチに腰かけたあたしたちは隣同志に座りながらこっそりと手を繋いだ。
すると、彼の指が不意にほどけたからなんだか手のひらが寂しくなった。
あれ…。
さっきまであったかかった手の熱が冷めていく気がした。すると彼の手が私の背中を通って肩に触れ、そのまま腰まで降りてきて腰をギユッと引き寄せてきた。
照れながら見上げると、真っ暗な夜空に煌めく星に負けないくらい、吸い込まれそうなまっ黒い瞳がキラキラと輝きながらこっちをみていた。
ドキドキして心臓の音が彼に聞こえそうな気がしたけど、ワイワイ騒ぐおじさんたちの声にすぐに掻き消された。
大きな真ん丸の秋の月が静かにこっちを見ている気がした。
静かに二人でそんなおじさんたちの酔っ払った姿を見ながらしばらく過ごしたあと。
若い職人さんたちが炭の後始末や網をあらうのや後片付けなんかを一気にやってくれた。
あっという間に撤収し終わって。リビングでお茶を出された。
職人さんたちが徐々に帰っていき。時計は九時半を回った。
「おい、恒介、そろそろ菜緒ちゃん帰さないと不味いだろ」
「ああ。家まで送ってくる。」
二人で並んで夜道を歩く。
さっき私たちを見下ろしていた月がどこまでもついてくる。
あー、今日も彼はあたしになにもしなかった…。なんてね。
彼はあんなにすぐそばにいたのに、あたしにキスもなにもしてこなかった…。
なんてこんなこと思ってるの。あたしだけかな。
せっかく買ってきた新しい下着も。
今日も出番がなかった。
初おめみえはいつになることやら…。
あたしたちに進展はないまま、もうすぐ二学期が終わる…。
季節はそんな頃。
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