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リビングに通されると、恒介君が大きなからだでどかっとソファーに腰かけた。
おじさんがあたしにお茶をいれようとしたから、慌てて立ち上がった。
「大丈夫です。お構い無く。わたしがやります。」
「ああ、そうだよな。好きにするといい。」
「そうだ。これ。母さんからおじさんにどうぞって。差し入れだって」
すっかり忘れていたオードブルの包みをおじさんに手渡した。
「やー。すまないね。いいのかい?ありがとう。
だけど、俺はこれから夜勤の現場に行かなきゃなんねぇんだ。これは帰ってきたらいただくよ。
あー、そうだ。これ、せっかくだから夕飯に二人で食べるといい。
この足じゃ、どこにもデートも行けないだろうしな。菜緒ちゃん、悪いんだけど米だけ炊いてやってくれるか? こいつに。」
「え?あ、はい。」
「片付けは俺が帰ったらやるからそのままにしておいてもらって構わねぇ。
イブのこんな時に悪いな。」
「ほんとだよ。親父はいつも人使いが荒いんだから。」
「なら、帰って貰うか?俺はそれでもいいんだぜ。お前は店屋物でもとったらいいし。俺はこれでもお前たちを気遣ったつもりなんだけど?」
「まあ。俺は…うれしい、けどさ…。」
顔を赤くした恒介君が申し訳なさそうにしながらあたしをみた。
「あたしは構いません。じゃ、そうさせて貰います。」
「台所は好きに使うといい。冷蔵庫になにかしら入ってんだろ。悪いな。」
「いえ、大丈夫です。」
「今日は菜緒ちゃんが来てくれてたすかった。そうだよな。恒介?お前、多恵さん帰って二人っきりだからって菜緒ちゃん無理矢理、押し倒すなよ?」
「するかよエロ親父。こんな足だぞ。」
「じゃあ、夜勤だから行ってくるからな。明日の昼には帰ってくるから。そうだお前、今日はここで寝ろ。階段その足じゃ無理だろ。いま、布団下ろしてきてやるから。」
おじさんは三階から布団のセットを持ってきてソファーの横にドサッと置いた。
「菜緒ちゃんは適当な時間に帰ってな。あんまり遅くならないうちに帰るんだぞ。お袋さん心配するから。」
「はい。」
そんな風にして。二人のクリスマスイブは恒介君の家で過ごすことになった。
ご飯の炊けるいい匂いがしてきた。母さんにオードブルを持たせてもらって正解だった。冷蔵庫に野菜があったからサラダをつくって。根菜類と卵でスープもつくった。
恒介君は怪我した右足を庇って立ち上がり、手伝おうとしたけど、無理矢理座らせた。
「いいから。座ってて。」
恒介君がハイハイしながらトイレに向かう姿がなんか、可愛かった。
骨は折れてなくてよかった。ヒドイ捻挫みたいで足首がパンパンに腫れてる。
重い機械や道具の入った荷物を抱えたままつまずき、転んで足を挫いたらしい。この程度の怪我ですんでよかった。
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