第1話 『黒猫と依頼』

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第1話 『黒猫と依頼』

霊能力者のレイちゃんは、黒猫と依頼に行く。 第1話 『黒猫と依頼』 「じゃあ、レイさん。お留守番お願いしますね!」  普段よりも成長して、中学生くらいの姿になったリエが私に手を振る。 「はいはい。まぁ、やることはいつも通りだし、問題ないよ」  今日は楓ちゃんが修学旅行に行く日。沖縄への旅行にリエも同行したいと駄々を捏ねて、結局楓ちゃんに取り憑いて同行するという形になった。  私達も一緒に行けたらよかったが、仕事の予定もあるし、リエだけなら料金もかからない。 「では師匠! レイさんにイタズラしちゃダメですよ〜!」 「するかよ!」  楓ちゃんは黒猫のことをわしゃわしゃと、こねくり回した後、そっと寂しそうに手を離した。 「それじゃ、行ってきます!」  黒猫から離れた楓ちゃんは私に敬礼する。そんな楓ちゃんに私は手を振ると、 「うん、気をつけてね!」  二人がいなくなると、事務所内は一気に静かになる。なんだか寂しさを感じる中、私と黒猫はリビングに戻った。  リビングにあるソファーの前のテーブルには、手紙が一枚置かれている。それは昨日、私達の元に届いた依頼だ。  依頼を私と黒猫だけで解決できるか、リエは心配していたが、元々私は一人でやってきたのだ。黒猫というお荷物がいようと問題はない。  私がソファーに座ると、黒猫も隣にちょこんと座る。  私は手紙に手を伸ばし、もう一度依頼内容を確認した。  屋敷に取り憑いた幽霊を祓って欲しい。  手紙の内容はシンプルにするとそうなる。よくある依頼だが、今回は幽霊を説得できるリエと、力技で除霊できる楓ちゃんが不在だ。 「おいレイ。どうするんだ?」 「そうね。まだ本当に幽霊がいるとは決まってないし、とりあえずは依頼人の屋敷に行きましょ。幽霊がいなければ、除霊したフリをすれば良いし、いたとしてもどうにかなるよ」 「ほんとかよ?」  不安そうな黒猫だが、何も見ずに依頼を断るのも可哀想なため、まずは屋敷に向かうことにした。  適当に荷物をバッグにまとめて、私達は事務所を出た。 「…………んで、頭から降りる気はないの?」 「俺の定位置はここだからな」 「…………」  頭に乗る黒猫を振り落とそうとしながら、目的地を目指す。  電車に乗り、地下鉄で乗り換えをして、駅から10分ほど歩いたところに、和風の屋敷があった。  一階建ての建物が広い敷地内に何個もあり、庭も広い。  インターホンを押して出てきたのは、和服を着た使用人の女性だった。 「よく来てくれました。霊宮寺殿、こちらです」 「どうも……」  使用人に案内されて、客間へ通される。普段はソファーに座っているため、座布団だと少し落ち着かない。  黒猫も緊張しているのか、ソワソワしている。しばらく待っていると、依頼人がやってきた。 「霊宮寺さんですね。よろしくお願いします、私は和大門 和利(わだいもん かずとし)と申します」  和服を着たちょび髭のおじさん。彼が依頼人の和大門さんだ。 「はい。よろしくお願いします。それで早速なのですが、どのような幽霊が出るんですか?」  私の向かいに座った和大門さんは天井を見る。 「よく家中を走り回っている音がするんです。廊下に天井裏、時には扉が開く音なんかも……。ネズミかと考えましたが、痕跡もなく……そして決め手になったのは声が聞こえたんです」 「声……ですか」 「はい。勇(いさむ)さん、勇さんと女性の声が聞こえるんです」  話を聞いた私と黒猫は向かい合う。そして和大門さんにバレないようにヒソヒソと話す。 「ねぇ、あんたはどう思う?」 「幽霊がいるかどうかか? 俺には分かんないぞ、低級の幽霊じゃ力は感じないしな。まぁ、話からして一旦探してみたほうがいいんじゃないか?」 「そうねー」  私は和大門さんに目線を戻す。 「一度、屋敷の中を巡回させてもらっていいですか? 霊を探してきます」  こうして私と黒猫は屋敷を探索することになった。  屋敷は広くどこから向かうか迷う。とりあえずは近くにある部屋から探索していき、屋敷を半周ほどした頃。庭に蔵があるのを発見した。 「おい、レイ。あそこ、行けるか?」  頭に乗った黒猫が蔵の方を見て、私に尋ねる。私は後ろをついてきている和大門さんの方を向き、 「和大門さん、蔵も確認させてもらっていいですか?」 「ああ、構いませんよ。どうぞ」  蔵へと入ると、そこは薄暗く埃が溜まっている。和大門さんの話ではもう何十年も使っていないらしい。 「レイ。いたぞ」  黒猫が蔵の奥を見て、私の頭を猫パンチする。蔵の奥に目をやると、そこには和服を着た女性の姿があった。  和大門さんに幽霊を見つけ、除霊をしたいから外にいて欲しいと説明して私達だけで蔵の奥へと向かう。  私達が近づき、幽霊は見られていると気づいたのか。サッと逃げようとするが、それを阻止するように黒猫が素早く動いて逃げ場を塞いだ。 「あなたね。この屋敷を徘徊してる幽霊は」  私の言葉に幽霊は申し訳なさそうに頭を下げた。 「ごめんなさい。でも、待ってください。私はまだ、まだ消えたくないです!!」  私達が幽霊を見えていることから、霊能者だと判断したのだろう。そして消されると考えて、こうして頭を下げたようだ。  そんな幽霊の姿を見て、黒猫はふんと鼻を鳴らした。 「安心しろ。コイツに幽霊をどうこうする力はないよ」 「猫が喋ったァァァ!!!!」 「いちいち驚くな、めんどくさい」  黒猫は幽霊がもう逃げないと判断したのか、私の元に戻ってくる。近くにあった棚を伝って、私の肩へ登り、定位置の頭で丸くなる。 「そ、それで貴方達は……。私に何の用なんですか?」  怯えながら尋ねてくる幽霊。そんな幽霊に私は胸を張ると、 「あなたを除霊しにきたの」 「やっぱり私を消しにきたんだァァァァァ!!!!」 「違う違う!! 力技で消す気はないから! あなたの未練を解決しに来たのよ!」 「私の未練を……」  説明を聞き、幽霊は頭を傾げる。そんな幽霊に黒猫は説明する。 「この世に未練のある奴が幽霊になる。未練を達成すれば、お前はこの世に留まる必要もなくなるだろ?」 「私の未練……ですか」 「まずはアンタの名前を聞かせてくれ。それから始めようぜ」  格好を付けて言う黒猫。そんな黒猫を見て、 「あんた、女性の幽霊だからってカッコつけてるんじゃないよ。楓ちゃんにちくるからね」 「カッコつけてるわけじゃないわい!」  私達は蔵から出て、和大門さんには除霊が完了したと伝えておいた。実際、幽霊は屋敷から出て、私達について来てくれることになったし、屋敷でもう幽霊騒ぎは起きないだろう。  そして私と黒猫は幽霊を連れて、事務所に帰ってきた。  幽霊の女性をソファーに座らせて、聞いた話を整理する。 「静子(しずこ)ちゃん。あなたの未練は勇さんという方に会うこと。それで良いのね」 「はい。生前に離れ離れになってしまい、再会を約束していたのですが、生まれつき身体の弱かった私は病で……。あの人に会えれば、私は……」  この幽霊の名前は和大門 静子。どうやら和大門さんの先祖らしい。生前に生き別れた勇という人物との約束を果たすために、この世に留まっているらしいが……。  私は黒猫の耳元で相談する。 「ねぇ、あんたはどう思う? その勇って人、生きてると思う?」  この女性がいつの時代の人物かはわからない。そのため、その勇という人が生きているとは限らないのだ。 「悪いが俺はもういないと思うぞ。そいつが約束を覚えてるとも思えない。何より、女ってのはずっと引きずりすぎなんだよ、男はな、過去のことなんて覚えてないんだよ」 「じゃあ、あんたは女みたいね。この前なんて尻尾踏んだこと、3日も経ってもネチネチ言ってきたし」 「誰が女だ!」  ごちゃごちゃと言い訳を始めた黒猫のことをこねくり回しながら、どうするかを考える。 「まぁ、この世にいなかったとしても未練を無くすためには会わせるしかないのよね。墓でも見れば、それで満足するかしら」 「やぁめぇろぉ、顔をこねるなぁぁぁぁ……」  私は黒猫をこねながら、静子ちゃんの方へ目線を向ける。 「その人はすでにこの世にいないかもしれないのよ。それでも良いの?」 「構いません。その人のことを感じられれば、それで」  そうと決まれば、やることは決まりだ。 「分かった。じゃあ、探しましょうか。その勇という人を!」  まずは情報収集からだ。私は黒猫を頭に乗せ、静子ちゃんを連れながら街を歩く。  どこで聞き込みをするか。悩んでいると、交差点を通ったところである人に出会った。 「やぁ、霊宮寺君!」  赤いヒーロースーツに身を包んだ人物。彼はゴーゴーレンジャーのレッド。  ヒーローという職業の変人だ。 「レッドさん、今日も見回りですか?」 「ああ、事件を未然に防ぐのもヒーローの務めだからね。そういう霊宮寺君は買い物かい?」 「いえ、今は仕事中で。あ、そうだ、レッドさんは勇という方を知ってますか?」 「勇君……。苗字は何かな?」 「えーっと……なんだっけ?」  私はサッと振り返り、静子ちゃんに尋ねる。 「佐々木 勇さんです」  苗字が分かり、私はレッドの方へ向き直る。 「佐々木 勇という人みたい!」 「なに、今の間……。あ、ああ、佐々木 勇君か。うむ、俺は知らないな」 「そう……。残念」 「今は力になれないが、こちらの方でも少し調べておくよ」 「ほんと! それは助かるよ!」 「では、俺は見回りに戻るとしよう。さらばだ!!」  レッドはポーズを決めて、去っていった。  レッドからは有力な情報を得られなかった。再び、街の中を捜索する。最寄駅まで歩き、駅周辺を歩いていると、 「おう、霊宮寺さんじゃないか!」 「あ、スキンヘッドさん!」 「いや、スキンヘッドって名前じゃね…………いや、いいや、んで、買い物か?」  出会ったのはスキンヘッド。買い物を終えて帰りのようで、手にはビニール袋をぶら下げている。中に入っているのは、バイクの部品だろうか。  私はスキンヘッドの質問に首を横に振る。 「いえ、私たちは仕事しているところなんです。そうだ、佐々木 勇という方について知りませんか?」 「ん、佐々木 勇か……。知らないな、そいつを探すのが仕事なのか?」 「はい。そうなんです」  スキンヘッドは携帯電話を取り出すと、 「ちょっと待ってな。姉さんとコトミにも聞いてみるよ」 「本当ですか! よろしくお願いします!!」  スキンヘッドは通話を始める。電話で京子ちゃんとコトミちゃんに佐々木 勇について聞いてくれたようだが、情報を得ることはできなかった。 「すまねぇな。力になれなくて」  スキンヘッドは申し訳なさそうに、ツルツルと頭を擦る。 「協力してくれただけでありがたいですよ。それじゃあ、私たちは他を探してみます!」 「おう、うまくいくと良いな!」  手を振るスキンヘッドを背にして、私と黒猫、そして静子ちゃんは歩き出した。  
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