一本の電話

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 さおりに似た顔作りの女は、長く垂れた黒髪を後ろの方へ撫で付けながら笑う。 「仁史、なに言うのよ?さおりよ」 『上岡さん、とりあえず落ち着いたらその女性と一緒に署まで来てもらえますか?』  ぶつりと切れた親機の通話 「さおりに似ているけれど、さおりじゃない!!」  起き上がってくるさおりと名乗る女と距離をとりつつ、醒めた頭で考えていく。  黒髪ロングヘアー、華奢な体型、平たい唇の下には小さなほくろ。切れながく腫れぼったい瞳。間違うことなどないのに、鳥肌がたってくる。 「さっきの電話なんだったの?」 「さおりが骨になって見つかったって」  女は取り乱すことなく、うふふと笑いながらさおりの着ていた服を着て、長い髪をセットしに洗面所へと向かっていく。 「仁史、見つかってよかったね」  謝ることなどなく、むしろ嬉しそうだ。洗面所から聞こえてくる声は弾んでいる。 「だから、きみは誰なんだ!!」  平然としている態度に僕はキレていた。さおりと一緒にいたと言う女が、記憶喪失だと言うので保護して。 * 『記憶が戻るまで居させてください』 『記憶が戻ったら、さおりの居場所を教えてくれ。それがきみを保護する条件だ』  さおりが友人に会うと出掛けて、事故に遭い、さおりだけが行方不明になっている。  記憶喪失の女が、さおりの服を着て病院にいた点は未だ明かされていないまま。  いつしか女をさおりと呼ぶようになって数年が経つ。  仕草や声色すら、さおりに似せている彼女を怖いと思ったのは最初だけだった。  僕はさおりが失踪した現実を受け入れたくなくて、保護した女にさおりを重ねていた。そう思い込むことで、現実逃避していたんだと気づく。
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