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さおりになるためなら、顔立ちだって変わってもいいの。声だって潰して、録音していたさおりの声が出る機械を声帯に埋めて。
アタシはさおりになっている
「さおり、アタシはずっと好きだったんだよ?気づいてないでしょう」
洗面所の鏡に映るアタシに問いかけても、さおりじゃないから無意味なのにね。
アタシを選んでほしかった。けれど、彼女が選んだのは、地味で大人しげな仁史。
「きみは誰なんだ!!」
声を荒げる人と一緒になったの?さおりにふさわしくないわ。あぁ、でも、さおりはもういないんだった。
「さおりに気持ち悪がられた。そして、仁史お前にも気づかれないボクって・・・」
さおりに嫌われるのなら、女友達になってあげよう。そう思い立ち、ホストで稼いだ資金でタイに行ったの。
「お前なんて言うやつ、誰なんだよ?」
さおりも仁史も幸せばかり感じていて、周囲の変化に気づきもしないなんて。
「ボクだよ。朔だよ」
昔のアタシの癖、指を何本が上下に動かして笑って見せたら、恐ろしいものを見たような表情を向けたまま、後方に下がっていく仁史。なんで、なんでとそればかり。
「ボクの好きな人を奪ったから、今度はボクが奪い返しに来たの」
大好きだったさおりを埋めたとき、一筋の涙を流しながら言ったの。
さおりのぶんの幸せを味わえるって
大好きなさおりの日々をアタシが過ごせる幸福感に満ちて、笑っていたっけ。
「仁史、ごめんね。ボクが好きなのはさおりだけだったみたい。さおりが愛した男はどんな人だろうって試させてもらったの」
せっかく、さおりになれたのに、骨が見つかるなんて計算外。そして気づかされた。
愛したのは、さおりだったんだ
さおりのいない日々にトキメキなんてないのはわかっていたのに・・・
「朔が、なんで・・動くな!!動くなぁぁ」
仁史の声が震えていく。怯えながら、スマホを取り出すけれど、震える手がスマホを落としている。
彼の様子を見ながら、アタシは洗面所に置いてあったカミソリを片手に忍ばせて近づいていく。
「仁史だけ逝かせないから・・ね?」
「やめ、ぎゃぁぁー」
仁史の首をかっ切った。飛ぶ血飛沫を浴びながら、アタシはさおりに似せた人生を終わらせていく。
「さおり、今・・・逝くね」
そうして、はじめてあった時みたいに、三人で笑い合おうね?
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