月が綺麗ですね……手が届かないから綺麗なの

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「横河せんぱーい、お疲れ様ですぅ」 「お疲れ様ー」  1ヶ月後の文化祭に向けて、我が文芸部は張り切っていた。  僕、横河(よこかわ)(たすく)が通う南谷(みなみだに)高校は、どんな運動部でも強豪校に名を連ねる県内屈指のスポーツ校である。そんな高校だから、文化部はもちろん肩身が狭く……文芸部に至っては部員は(わず)か3人で部と認められている事が奇跡だった。 「文化祭で来年の新入部員をゲットするぞーー」 「おー」  来年、部長の僕と副部長の海原(かいばら)友奈(ゆうな)が卒業してしまったら、書記の山本璃々(りり)は1人になってしまう。これは由々しき大問題。  文芸部、存続の危機である。  文化祭は体育祭より地味とはいえ、我が校を志望する中学3年生の子達が見学がてら、遊びに来る機会だ。 「1に笑顔。2に笑顔。3、4が無くて、5に笑顔よぉぉ!」 「おー」  副部長の友奈の掛け声に璃々(りり)は声を高く同調し、拳を天井に向かって上げた。2人は笑顔の練習に余念なく、鏡の前で明るい表情を作る。優しい先輩がいるよ作戦を決行するようだ。  …………なんか違う。  僕は少し呆れながら、笑顔の練習をしている2人を横目に文芸部らしく小説を執筆したり、資料をまとめたりしていた。  卒業した先輩が残してくれた文化祭の資料を片付けていると、可愛らしい手作りの小冊子が目に入り、手に取った僕はパラパラとめくってみる。
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