月が綺麗ですね……手が届かないから綺麗なの

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 なんだこれ? OKの場合? NOの場合? 何がOKで、何がNOなんだ? 好きな人に? 告白? 「せんぱーい、何ですかぁ? それ」  意味が理解できず悩んでいると、僕の肩越しから璃々が顔を出し、覗き込む。 「あー、なんか卒業した先輩たちの?」 「わぁぁ、夏目漱石だ!」  璃々はきゃっきゃっとミーハーに声を弾ませた。突然、意外な人物の名前が出てきた事を不思議に思い聞き返す。 「夏目漱石?」 「そうですよぉ。夏目漱石が『I love you』を『月が綺麗ですね』に訳したって逸話があるんですぅ。『月が綺麗ですね』って愛の告白なんですよぉ。素敵ですよねー」  両手を組み、夢見るような目で璃々がいいなぁと呟いた。 「私にも王子様、現れないかなぁ。イケメンに『月が綺麗ですね』なんて言われたら、私、死ぬ」 「ええっ……こんなのさ、他意なく普通に言っちゃうよ。絶対」  璃々の夢を壊すようで悪いけど、こんな事言う男がいるとは思えない。話題に困ったりしたら、空見上げて適当に言っちゃいそう。 「やだぁ。先輩、文芸部なのにロマンがないですよぉ」 「そうよ。横河君は部長なんだからね!」  今まで鏡の前で顔の角度の研究をしていた副部長の友奈が、僕と璃々の会話に口を挟む。 「だって、こんな告白、相手が『月が綺麗ですね』の意味を知らなかったら通じないじゃん」  至極全うな事を言ったつもりだが、友奈がにぃぃといたずらっ子のように笑った。 「横河君の好きな人は、ちゃんと意味を理解できるんじゃないかなぁ」 「はぁぁ!? な、なに言ってんだよ!!」  慌てる僕に、友奈はにまぁと口元を緩め、小冊子の裏表紙左下を人差し指でトントンと軽く叩く。その指の先にある名前は、僕もよく知っている文芸部の先輩の名前だった。  野々(のの)(じま) (まどか) 著  ……野々島先輩がこの小冊子作ったのか。
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