4人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
なんだこれ? OKの場合? NOの場合? 何がOKで、何がNOなんだ? 好きな人に? 告白?
「せんぱーい、何ですかぁ? それ」
意味が理解できず悩んでいると、僕の肩越しから璃々が顔を出し、覗き込む。
「あー、なんか卒業した先輩たちの?」
「わぁぁ、夏目漱石だ!」
璃々はきゃっきゃっとミーハーに声を弾ませた。突然、意外な人物の名前が出てきた事を不思議に思い聞き返す。
「夏目漱石?」
「そうですよぉ。夏目漱石が『I love you』を『月が綺麗ですね』に訳したって逸話があるんですぅ。『月が綺麗ですね』って愛の告白なんですよぉ。素敵ですよねー」
両手を組み、夢見るような目で璃々がいいなぁと呟いた。
「私にも王子様、現れないかなぁ。イケメンに『月が綺麗ですね』なんて言われたら、私、死ぬ」
「ええっ……こんなのさ、他意なく普通に言っちゃうよ。絶対」
璃々の夢を壊すようで悪いけど、こんな事言う男がいるとは思えない。話題に困ったりしたら、空見上げて適当に言っちゃいそう。
「やだぁ。先輩、文芸部なのにロマンがないですよぉ」
「そうよ。横河君は部長なんだからね!」
今まで鏡の前で顔の角度の研究をしていた副部長の友奈が、僕と璃々の会話に口を挟む。
「だって、こんな告白、相手が『月が綺麗ですね』の意味を知らなかったら通じないじゃん」
至極全うな事を言ったつもりだが、友奈がにぃぃといたずらっ子のように笑った。
「横河君の好きな人は、ちゃんと意味を理解できるんじゃないかなぁ」
「はぁぁ!? な、なに言ってんだよ!!」
慌てる僕に、友奈はにまぁと口元を緩め、小冊子の裏表紙左下を人差し指でトントンと軽く叩く。その指の先にある名前は、僕もよく知っている文芸部の先輩の名前だった。
野々島 円 著
……野々島先輩がこの小冊子作ったのか。
最初のコメントを投稿しよう!