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児島の顔が一気に凍り付く。
ん?どうした?何が起きた?
普段から運転するに辺り、ハンドルを握るという行為はごく自然にやってきた。
ハンドルから手を離す行為もまた然り。
車のシガーライターを使い煙草を吸うのもまた然り。
すべての無意識にやっていた事が全て出来ない。
児島は自分の手はハンドルをしっかり握ったまま。
まるで他の人の手のように自分の言う事を全く聞かない。
「何だよこれ!何なんだよ!」
ハンドルを握る自分の両手を見つめながら狼狽する児島。
そんな児島にさらなる追い打ちをかける。
真っ暗な道の中。
車のライトが照らす数メートル先に見えたのだった。
白い女性の姿が…。
時にして一瞬。
50キロ前後で走る車にとって数メートル先など1秒もかからない。
しかし児島にとっては全てがスローモーションに見えた。
児島は狼狽し、ふと前方を見る。
影?
人影?
車のライトが徐々にその姿を映し出した。
白い服。土砂降りの中、傘もささずに立ち尽くす女性の姿を…。
白い服を着た女性は、雨に打たれながらも動じることなく立っていた。
その長い髪は雨で濡れて重く、顔を隠すように前に垂れ下がっていた。
よく見ると白い服は土などで汚れている。
そうこう考えている児島の頭とは関係なく、身体は反射的にブレーキを踏む動作に入っていた。
時間にして1秒もない。
ブレーキがきかない…?
そう思う児島の頭より先に強い衝撃とドンッという鈍い音が児島の耳を貫いた…。
反射的に児島は目を瞑った。
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