1.冥土の土産

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1.冥土の土産

 困った。困ったぞ。誰か助けて。 「むしろ助けろ。」  最後の口の悪いセリフだけ胸の内から洩れてしまい、隣の席の先輩に 「口悪いわね、今日子(きょうこ)さん。」 と注意された。私は先輩をじっと見て 「友田さん、結婚してくれませんか?」 と訊いてみる。 「私、既婚者。」  友田さんが左の薬指にはまった指輪を見せつけながら私を無下にする。 「あぁ・・・どうして私は友田さんが独身のうちに出会えなかったんだろう。」  頭を抱えて嘆くと、友田さんが 「独身でも女同士の結婚は難しいんじゃない?」 と、また私を無下にした。 「へぇ、今日子さん女性が好きだったんだ。」  斜め前の席の後輩に言われて 「男女問わない。結婚してくれるなら北川くんでもいいよ。」 と言ってみるけれど、 「やですよ。」 と一蹴されてしまった。 「あぁ・・どうして誰も私と結婚してくれないの!?」  天を仰いで嘆いていると、 「仕事しろ。」 と、少し離れた席にいる課長に怒られた。私は課長を見据えて 「課長、私と結婚・・・」 「仕事しろ。」 「一瞬でいいんで、結婚しません・・」 「クビにするぞ。」 「課長にそんな権限あるんですか?」 「なめんな。」  課長が強がりながら泣くので、 「ごめん、ごめん、仕事するから。」 と慰めると 「敬語!!」 とまた怒られた。
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