1.冥土の土産

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 昼休みになり、自席でアイスを咥えながら、椅子の背もたれに頭を預けて天井を眺める。  あーあ。どうしてこうも、私の人生はうまくいかないんだろう。  ぼんやりした頭で嘆いていると、溶けたアイスが口の横をツツーッと垂れて、慌てて跳ね起き、ティッシュで口元を拭いた。  ふと視線を上げると、お向かいの席の中田くんがこちらを眺めていた。中途入社の中田くんは、同い年でお向いの席なのに、どうも私との心の距離が遠い。 「アイス垂らしちゃった。」  中田くんは反応せず、でも視線も外さずにパンを齧った。 「あ、そのパン、今、シールついてるんだよね。私も集めてる。」  ホクホクとした笑顔で言うけれど、中田くんは表情筋を一切動かさず、返事も一切せずに、残りのパンを2口で平らげて、包装紙をくしゃりと丸めてゴミ箱に捨てた。 「あ!シール取ってなくない!?」  思わず立ち上がって中田くんのほうを覗き込むけれど、中田くんは相変わらず無言でこちらを眺めるだけだ。 「シール!もったいないよ。なに当たったの?」  中田くんは私を眺めたままコーヒーを飲み、そのあと立ち上がる。 「ねぇ、ねぇ。シールいらないならちょうだい。拾っていい?」  もう歩き出していた中田くんがチラリと私を振り返り、”いい”とも”ダメ”とも言わずに立ち去って行った。
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