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そして、三つ目は……
「おい、何をしているんだ」
いつのまに研究所に来ていたのか、背後に中川が立っていた。
「朝ご飯作ったんだ。こっちは中川の分な。口に合えば良いけど」
驚愕といった表情の中川を促し、テーブル(正確には研究デスクだが)に座らせる。
大夢は今研究所で寝泊まりさせてもらっているが、食事は所内の冷蔵庫の中を使ってよいと言われている。そして中川自身は研究所に出勤後、備え置きのタブレットだけで済ませていることを大夢は知っていた。
「悪いな、勝手なことして。食糧が貴重なのは知ってるから、極力節約はしたつもりだ」
「それは、別にいいが」
なぜ俺の分も?と分かりやすく戸惑っている。おそらく対価を払わず人にご飯を作ってもらったことなど今までに無いのだろう。
さて。ここからは正直賭けだ。上手くいくと良いが。
中川がゆっくりとスープを口に運ぶ。具が卵だけの質素な中華風スープだ。
「……美味い」
彼は小さく呟いた。そしてスイッチが入ったように、次から次へと食事に手をつけてゆく。
パサパサした古い米に、元の素材も分からないような成型肉を焼いたもの。葉野菜を千切り塩をかけただけのサラダ。それでも彼は、痛く美味しそうに食べ続けた。
食べ終えた後、彼はごちそうさまとは言わなかった。
当然だ。ごちそうさまは食材と作り手に対する感謝の言葉。言おうとしても言化けするだろうし、言葉の存在すら知らないはず。
だけど。
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