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「これを着ろ」
後部座席の大夢に向け、男——中川優希と彼は名乗った——が黒い物体を投げた。キャッチした瞬間、想定外の重さに腕が沈む。
「これは?」
「防弾チョッキだ。お前の時代にもあるだろ」
何事もないように言って中川は車を発進させた。
大夢はチョッキを羽織りつつ、改めて窓の外の風景を観察する。こいつが必要な理由は、この荒廃具合を見ればおよそ察しがつく。
「今、日本は戦時中なのか?」
「日本だけじゃない。世界のあちこちで戦争がもう、150年は続いてる」
驚きで言葉に詰まった。150年ということは、2100年頃にはもう戦争が始まる計算だ。決して他人事ではない未来に背筋が寒くなる。
「お前は西暦2050年から来たんだよな?」
バックミラー越しに中川の切れ長な目と目が合った。
「あ、あぁ」
「実は戦争が始まった2100年頃、世界的に謎の超常現象が起こった」
「超常現象?」
急に何の話だろう。分からないが、雰囲気的に楽しい話ではなさそうだ。緊張で喉奥がごくりと音を立てる。
「ある日突然、とある言葉が使用できなくなったんだ」
「は?」
なんだそれ。
思わず拍子抜けする大夢だったが、ミラーの奥の中川は至って深刻な面持ちだ。
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