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あれから三日。中川の研究所に連れて来られた大夢は、毎日朝から晩までその言葉を探し当てるための研究を行なっていた。
方法は至極単純で、大夢が単語を言い、言化けするかを試すだけ。対象は、それが世界から消えるだけで戦争が起こりそうな言葉。
大夢は知恵を絞りあらゆる単語を口にし続けた。
法律、愛、条約、夢、警察、希望、反差別、平和、国際連合。
しかし今のところはどれも言化けしていない。何十、何百と失敗を繰り返すうち、大夢の心にはある疑惑が生じる。
本当にその言葉は戦争と関係のある言葉なのか。言化けが戦争の原因なんてのは中川の思い込みで、本当は全然関係ないのではないか。
もしくは言化けなんてもの自体がただの作り話だったとか。
冷静に考えて、150年も前の文献に書いてあっただけの荒唐無稽な超常現象を信じる方がおかしい。浦島太郎の玉手箱を本気にする人がいるか?
そう。きっと中川はおかしいのだ。
彼は大夢を窓一つない剥き出しのコンクリート壁の小部屋に閉じ込め、ひたすら単語を吐せ続けた。気が狂いそうな単純作業の強制。さらに大夢が苦痛で黙り込むたび、彼は「次の単語を」と機械的に要求した。
最初に感じた通り、中川は極めて人間味の無い人間だった。同じ血が通った人間とは思えないほど。あまりに人を労ることを知らず、彼のような酷い人間がいるから戦争が終わらないのではとすら思ってしまう。
大夢の心身は着実に疲弊していった。
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