「◆∀∈+@」が無い世界

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✳︎  朝から作戦のためにせっせと働く大夢。研究所のキッチンにほのかな湯気が立ち込める。  昨日、分かったことが三つある。  一つは中川に人間味が無い理由。というよりおそらく、この時代の人間に、と言った方が正しいか。  その言葉。そしてそれに関連する感謝、お礼などの単語。  それらが全て使えないということは、人に感謝を伝える方法が無いということ。つまり150年前、人類は言葉だけでなく『感謝するという行動』も失ったのだ。  人に優しくされたら感謝し、お礼を言う。その当たり前を失ったら世界はどうなるだろう。  答えはたぶん、『誰も人に優しくしなくなる』だ。  優しくするということは本来見返りや対価を求めてすることではないが、それでも、優しくした結果感謝の言葉一つ貰えなかったら、次も優しくしようと思うだろうか?  否、きっと思わない。  優しさには感謝が必要だ。だから感謝を失った150年前の人々は、誰かに優しくしたり、されることがなくなっていったはずだ。そして年月が経つにつれ、次第に人に優しくするという考え方自体が廃れてしまった。  それこそが、中川が人を助けることに「なぜ?」と言った理由であり、戦争が起こり長引いた原因だろう。  この時代の人にとって人間関係とは損か得か、奪うか奪われるかであり、それ以外の関わり方は知らないのだ。  中川の言う通り、言化けは確かに戦争と関係していた。
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