迷える子羊たち

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犬と言う動物は、人間とは違い、危険を感知する能力には長けており、それ故に、ラッシュは、他の犬達と一緒にその場から逃れていたのである。ところが、ひとりだけはぐれてしまい、修二と拓磨の匂いを頼りに彷徨っていたのである。 そうとは知らずにいた修二達は、取り止めも無く、只管にラッシュの身の上を案じ続けているのであった。 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥。。。 「‥‥‥ねぇ、修ちゃん。僕、ラッシュの事が心配だよ。‥‥‥探しに行こ?」 拓磨が、修二に向かって言った。彼が誰かに対して釈然とした物言いをしたのは、この時が初めてだったかも知れない。修二は、思わず俯いたままで呆然としていたものの、暫くしてから拓磨と未季に向かって呟いた。 「‥‥‥だよナァ。。。」 修二・拓磨・未季の3人が、その場から離れようと重い腰を上げたその時、ボランティア・クルーの中のひとりの青年が、彼等の傍らへと近付いて来て、何やら話し掛けようとしていた。 「‥‥‥ねぇ、君たち。‥‥‥これから、皆で炊き出しを始めるつもりでいるんだけど、良かったら、君達も一緒にどう?」 「‥‥‥‥‥‥‥‥。。。」 けれども、修二達は、その青年の言葉を遮るかの様に、そそくさとその場から走り去ってしまうのだった。青年は、遠ざかって行く彼等を呼び止めるかの様に、大声で叫ぼうとするのだった。 「‥‥‥ねぇ、何処へ行くの?‥‥‥戻っておいでよぉ!皆で仲良くしようよ。」 ところで、若葉の里児童園の園長である榎本枝美子の所在なのだが、‥‥‥丁度、時を同じくして、枝美子は、仕事の関係で、九州は熊本県にある益城町へと訪れていた。その町にある児童福祉施設の主催で、震災に因る被害に於ける対策と支援活動についての会合が行われていたらしい。 修二達が被った災いは、その矢先での出来事なのであった。 枝美子が、メディアを通して、東日本大震災の実情を知り、現地へと戻って来た頃には、彼此、震災から10日程が過ぎていた。彼女は、役所の人間を通して、施設に関わる人員の所在についての詳細を知ろうとしたのだが、その殆どが死亡、若しくは、生死不明であると言う報せを受けてしまうに及んだ。 その不明者リストの中には、寺岡修二・小池拓磨・榎本未季の氏名も記されていた。
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