モノローグ 〜 那由蛇の独り言

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その村を訪れて以来、舞子以外の相手とはなかなか話をする事も無く、それだけに僅かながらにも不安を抱えてしまっているアタシだったのだけれど、お店を訪れる村人から親切にして貰う度に勇気付けられて、その頃のアタシも、段々とお店の雰囲気に親しみを感じられる様になっていた。 「‥‥‥あっ、舞子ママ。山ちゃんに、ワンタンメン大盛りとライスひとつです!」 舞子は、辿々しくも元気一杯の笑顔で注文を取るその頃のアタシの姿に、僅かながらの歓喜の眼差しで返してから、黙々と調理場で作業を始める。その日を皮切りに、アタシは、舞子の仕事を手伝いながらも、彼女の作るラーメンの味付けやスープの仕込みのレシピ等を、密かに窺い始めるのだった。 あれは、アタシが舞子と初めて出会ってから一年程が過ぎた頃の或る日の出来事だったかしら。その日は丁度、舞子のお店はお休みの日。何時に無く、空模様は荒れていて、天気は下り坂って感じだったかしら。舞子は、その日のお昼過ぎからお家を留守にする予定だったのだけれど。何やら町内会の集まりだとかで温泉宿で一泊して来るだとかって言う事情をアタシが耳にしたのは、その日の前日の夜が更けてからの事だったのよネ。 つまりは、舞子が留守にしている間、アタシは舞子のお家で一人きりでお留守番って事なのかしら? 何分、その村の土地にも段々と慣れて来たその頃のアタシは、快く留守番を引き受けてしまったものの‥‥‥。 その日の一日も終わりを告げ、次の日の朝を迎えた。舞子の帰りを待ち侘びていたその頃のアタシは、彼女を迎える為に台所に立って、朝御飯の準備をしていたの。それでも、舞子がお家に戻って来る気配を感じられずにいたアタシは、少し不安になってしまった。そして、その日も何事も無く過ぎてしまい、その翌朝の事。 舞子がお家を留守にしてから二日目の朝を迎えても、彼女が帰って来る事は無かった。お店の営みの事も気に掛かっていたアタシは、舞子の代わりにお店を開ける事にした。その宵の晩から仕込み始めていたスープ。お店を開いていると、ひょっとすると、舞子ママが戻って来るかも知れない、と言う願いを込めながら‥‥‥。 それでも、その日、お店の暖簾を掻き分けながら潜って訪れたのは、舞子ママなどでは無く、お店の常連のひとりである山咲健吾、通称・山ちゃんだったの。
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