あの頃の僕ら

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「‥‥‥俺にも見せてくれないか?」 そう言って、修二は、拓磨からその小説本を受け取って、少しの間、目を通していたのだけれど、何を諦めてしまったのか、そのまま本のページを閉じてしまい、そして、拓磨に返してしまうのだった。 「‥‥‥俺には難し過ぎて、何が何だかサッパリ分かんないよ。」 すると、拓磨は、傍らに置いてあった別の文庫本を持ち出して来て、修二の目前に差し出すのだった。それも又、太宰治の小説で、表紙には『走れメロス』と記されていた。拓磨が持ち合わせていた文庫本の殆どが、太宰治の小説だった。 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。。。 「‥‥‥こっちの話の方が、俺にも分かり易いかもナァ。。。」 暫くの間、本を眺めていた修二が、拓磨に向かって呟いた。それから、本のページを閉じた修二は、拓磨に言った。 「‥‥‥この本、‥‥‥少しの間、借りてても良いか?」 拓磨は、仄かに笑みを浮かべながら、修二に向かって答えた。 「別に構わないよ‥‥‥。」 それからと言うもの、修二は、拓磨と一緒に読書に明け暮れる時間が増えていった。修二と出会って以来、拓磨も、人前で話をする姿が見られる様になっていた。今ではすっかり、まるで兄弟であるかの様に親しみを感じ合う修二と拓磨。その様なふたりの姿の傍らで、何時しか、親しみに満ちた視線を送る未季の姿が其処にあった。 そんな或る日の事‥‥‥。 修二が、拓磨と未季の前で、ぼんやりと呟いた事があった。 「‥‥‥俺も、‥‥‥その内、小説か何かを書いてみようかナァ?」 拓磨が、修二に向かって言った。 「それは、面白ろそうかもネェ。‥‥‥でも、この激動の時代に生まれて来た僕達にとって大切なのは、物語の世界の中で何をどうするかと言う事よりも、この世界観の中の日常で何をどう変えて行くのかと言う事だと思う。‥‥‥それに、小説を書く為には、それなりの経験だとか文章表現なんかをもっと詳しく知る必要があると思うよ。僕らの歳でそれをするのは、とっても簡単じゃ無いと思うけど?」 「‥‥‥そんなモノかなぁ。。。」
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