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和輝と美優と猿子
世界中に雪が降り続いた。
日本の都市も山村も、雪で埋もれた。
神奈川県地方にも、灰色の空から、雪が間断なく降り落ちていた。
街は人通りも車の姿も消え、積もった雪は膝上を超えていた。
雪化粧をした寂しそうな外灯柱に、大きな雪玉がバシャッと弾けて飛び散った。
ワァーワァー、キャーキャー、キーキーという声が響き渡り、寂寥空間を打ち破った。雪景色の中、和輝と美優と猿子の二人と一匹が、雪玉を投げ合い燥いでいる。
美優が積もった雪に足を滑らせ転んだ、和輝の投げる大雪玉がドサッと当たった。
和輝がニンマリと笑った。
猿子は飛び跳ねて喜んだ。
和輝が叫んだ。
「猿子、美優に総攻撃だ! 」
猿子は、うんうん、と頷くと、作り溜めて置いた数個の雪玉の中の1個を、和輝に投げ渡した。
※
猿子は小サルだと想われるが、姿形は結構違う、長い白い毛で覆われていてモフモフ感があり、目も丸く大きいし垂れ下がった耳も大きい、チンパンジーと似た様な動きをするが、普通の動物では考えられない知能と身体能力を秘めている。5年前に、白鳥家の庭に置き去られていた奇妙な赤ちゃん動物を、サルだと思い込んでしまった富士子が、白鳥家で引き取ると決まった時に、さる子という好い加減な名を付けて、今に至っている、が、意外にも猿子は自分の名前を気に入っている。食べるものが人間と全く同じなので、白鳥家では末娘と見なしていて、動物扱いはしていない。二つの妹は出生が不明という事と、能力が人間離れ、動物離れしている処から、美優がサイボーグ人間で、猿子はサイボーグ動物の、可能性がある… と、白鳥家内だけの極秘事項も、間もなく……… ※
「何で私だけが! 標的に成るのよ! 」
と叫んだ美優の顔に、和輝の投げた雪玉がバシャッと当たり弾けた。
続いて猿子が投げた雪玉が、美優の顔に付いている雪壁に被さる様に、ベシャッと当たった。
和輝が嬉しそうに笑った。
猿子が飛び跳ねて喜んだ。
シャーベット状の雪壁の中の美優の美しい顔が、膨れた。
「お兄ちゃんと猿子よ、私の顔は狙わないでって、言って在ったわよね!」
「ゴメンよ、手が滑ったんだよ」
と言う間に、次の雪玉が美優の顔にベシャッと当たり、雪粒が飛び散った。
和輝の顔がニンマリと微笑んだ。
「うぅー! もう許さない! 」
憤怒の美優の顔から、怒りのエネルギーが湧き出た!
雪に埋もれていた美優の体が立ち上がり、雪面に浮いた!
美しい顔が、鬼の様な形相に生った!
「うっ! 拙い、殺される! 猿子! 逃げるんだ! 」
猿子は怯える表情で一目散に逃げようとした。
和輝は驚愕の表情で一瞬で駆けだそうとした。
刹那! 目にも止まらぬ速さの雪玉が、兄人間と妹サルの体に、同時に弾けた。
サイボーグ人間の様なスピーディーで華麗な動作で、美優が投げる雪玉は機関銃の様に連射された。
和輝と猿子の顔も体も、雪壁に生った。
キャーキャー、ワァーワァー、キーキーと燥ぐ声が、二人と一匹の、雪空間に木霊して行く。
降り落ちる雪間に浮かぶ雪幕が、オーロラの様に下降して、燥ぐ兄妹を、覆った。
真夏を迎える時期に、大寒波と共に世界を襲った、冷え冷えとした真っ白な空間は、世界を混乱の坩堝に陥れる前兆だった…………
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