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「あっ、ウサギだ!」
雷魔法を使い、野ウサギを痺れさせて捕らえると、風魔法で捌いて、水魔法で血を洗い流す。木の棒をかき集めると、火魔法を使い火をつけて焼いていく。
「わっ!火の威力が強すぎちゃった。でも、これだけ強ければすぐに焼けそう」
森に捨てられてから、三ヶ月程が経つ。魔法を駆使しながら、なんだかんだと生き延びてきた。調味料はないから、味付けなしの肉にかぶりつき、二日ぶりのまともなご飯に感動を覚える。ウサギやトリが見つけられないときは、食べられそうな木の実を採って空腹を紛らわしていた。
(残りは取っておこう)
土魔法で土を固めて入れ物を作る。一回目は上手く作れなくて割れてしまったけれど、二回目で上手く作ることができた。水魔法を応用して凍らせた肉を保存しておく。道で拾った薄汚れた革鞄に容器をしまう。鞄の中には、念の為に木の実や食べられそうな草を保管している。木の実の種も乾燥させて入れてあるんだ。
食事を終えると、住処すみかへと戻ることにした。ここから、少し歩いたところにある、大木に空いた大きな穴が僕の住処だ。
住処に戻る途中、今までは気づかなかった細い横道に気がついて、なんとなくそちらへと足を運ぶ。茂る植物を掻き分けて進んでいくと、遺跡のような場所に辿り着いた。
(剣?)
壁に背を預け眠るように亡くなっている骸骨の胸の中に、一本の質素な剣が刺さっている。引き寄せられるように柄に手を伸ばすと、簡単に引き抜くことが出来た。その瞬間、剣が光り輝き、細やかな装飾の施された白銀の刀身へと変化する。手にしっくりと馴染み、全身から力がみなぎって来るような感覚がした。
「今代の主は少し幼いようだ」
「えっ? 剣が喋った!」
渋い男の人の声が剣から発せられてびっくりする。これもなにかの魔法なのかな?
「僕が主?」
「我の名はオレオール。我に触れることが出来たのだからそなたが主であることに間違いはなかろう。主はなにを目的とし我の力を欲する。我は主の願いを叶える手助けをしてやろう」
「……うーん。急に言われてもとくに目的なんてないよ。たまたま君を見つけただけだから」
僕はこの森でのんびり生きていければそれでいい。なにか大きな目的がある訳でもないし、僕は魔王を倒す勇者というわけでもないから大義名分もない。でも、力を貸してくれるのなら心強い。
「なにか我に願うことはないのか」
「んー、あ! じゃあ、僕とお友達になってほしいな。僕には話が出来る友達がいないんだ」
「……変わった主よ。それが主の願いなら叶えよう」
「ふふ、ありがとう。僕の名前はソルっていうんだ。これからよろしくねオレオール」
オレオールを胸に抱え、住処へと戻るために元来た道を進む。そのとき、突然僕の真上の空だけが暗闇に包まれて、目の前に黒紫色の魔力が雷のように落ちてきた。真っ黒な霧が晴れると、二メートルは越える体格のいい端正な顔をした黒髪の男性の姿が視界に映る。深紅の瞳が僕の姿を捕らえると、細められた。
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