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「……想像していたよりも幼いな」
「誰?」
「私の名はノクス。今代の魔王だ」
「魔王……魔族の王様?」
「そうだ。お前は勇……」
ノクスがなにかを言いかけたとき、オレオールがひとりでに光りだして、眩い閃光が前へと放たれた。咄嗟に閃光を避けたノクスが、オレオールを睨む。
「随分な歓迎だな」
「主から離れてもらおう」
「……やはりその幼子が……。お前、名はなんという」
「ソルだよ。それより、怪我をしてるっ!」
「おいっ、なにをする」
オレオールが放った閃光が掠ったのか、ノクスの手の甲に赤い線が走っていた。慌ててノクスの手を掴み、治癒魔法をかける。最初は戸惑っていたノクスだったけれど、治癒魔法だとわかると、受け入れてくれた。
「なぜ一人でこのような場所にいる。親はどこだ」
治癒を終えた僕にノクスが尋ねてきた。冷たくもとれる涼し気な顔の彼は、決して僕から目をそらさない。全身を観察するように見られて、少し恥ずかしい。
「僕、ここに置いてけぼりにされちゃったんだ。きっと両親は迎えに来ないと思う」
「……こんな幼子を森に置き去りに? 人とはやはり慈悲の欠片もない愚かな種よ。……それならばソルよ、私と共に来い」
ノクスの言葉が上手く呑み込めなくてキョトンとしてしまう。オレオールは、ふざけるな! と大声を上げているけれど、僕は言葉が出てこなかった。
差し出された大きな手を見つめながら、どうしたらいいのだろうか? と迷う。言うことを聞かなければ酷いことをされるのかな……。
「どうして?」
微笑みを浮かべ尋ねてみる。僕を連れ帰る理由なんてないはずなのに。
「お前を手元に置き、監視するためだ」
「監視?」
「そうだ。来るのか? 来ないのか? 来ないのなら、今すぐお前を殺さねばならなくなる」
殺すという言葉を聞いても恐怖は感じなかった。この森に置き去りにされたときから、死んだようなものだから。そうしたいというのならそうすればいいとも思う。
「ソル、逃げるのだ!」
オレオールの声にハッとした。僕はここで死んでもいい。でも、オレオールはどうなるのかな? 折角出来た友達を置き去りには出来ない。それなら、選べる選択肢は一つしかないとわかる。
「一緒に行く!」
「ソル! なにを言っているんだ!」
怒鳴り声が飛んでくるけれど、あえてそれは無視して目の前の大きな手を掴んだ。想像よりも温かい体温を感じていると、引き寄せられて、目の前が黒紫色に染まった。
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