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「わかった。今夜は一緒に眠ろう」
「……っ、ありがとう」
そのまま横向きに抱き抱えられて、ベッドへと連れていかれる。いつもノクスが使っているベッド。そのことに胸が跳ねた。
そっと降ろされると、ふわりとノクスの香りが鼻腔をくすぐる。まるで全身をノクスに包まれているよう。幸せで、安心できる場所。
隣に横になったノクスが、あやすように背を片手でポンポンと叩いてくれる。一定のリズムを感じながら、ようやく本当の意味で心が安心できた。
首に腕を回し、顔を近づける。間近に端正な顔があって、鼓動が早くなる。
「久しぶりだよね。こんな風に一緒に眠るの」
「そうだな」
離れろとは言われない。逆に、抱き寄せるように腰に腕が回される。逞しくて、心地のいい腕の中で、大好きな人に見つめられていると、恐怖なんて吹っ飛んでいく。
「……あまり見つめないでくれ」
「嫌だよ。ずっとノクスを見つめていたい」
そうしないと、突然目の前から消えてしまいそうだから。
深紅の瞳に吸い込まれそうになる。出会ったときからなにも変わらないノクス。幼い頃は、彼に釣り合いたくて、必死に大人になろうとしていた。
今もノクスに比べれば、華奢だし小さい。でも、成長し、手のひらも大きくなった。あの頃は歯がゆかった差はもうない。
吸い寄せられるように、ノクスの唇へと顔を寄せる。想像よりも柔らかい感触。ピクリとノクスの肩が揺れた。気付かないふりをしながら、薄く形の整った唇を食む。今までで一番、深紅の瞳を近くで見つめている。
もっとノクスを感じたくて、微かに唇を開けたとき、轟く舌が口内へと潜り込んできた。突然のことに驚いて身を引こうとするけれど、腰を固定されて動けない。
くちゅりと水音が鼓膜を揺らし、これが現実なのかすら曖昧になる。酸素は薄く、脳内はぼんやりとしている。初めてのキスはケーキよりも甘い。
「ノクス、ん……大好き……」
「……なにもいうな」
「ん……ゃ、あ……」
何度も角度を変えながら、お互いの口内を貪り合う。どうしてノクスは僕を受け入れてくれたのかな。一瞬、頭を過った疑問。
(考えるのは止めよう)
今はただ、この甘美な時を味わっていたい。
ノクス……愛してる。僕は君に出会えて幸せなんだ。幼い頃は勘違いだと相手にしてもらえなかった。成長した今はどうかな? 少しは僕のことを意識してくれている?
「……好き、はぁ……ぁ、すき……すきだよ」
「ソル……」
ノクスに名前を呼ばれると、お腹の奥が疼くような感覚がする。時間を忘れて、ひたすら唾液を交換し合いながら、しっかりとノクスの存在を唇と心に刻み込む。
「もう寝ろ」
酸欠で意識が朦朧としてきた頃、唇を離したノクスが手で瞳を覆ってきた。これはノクスの癖だ。名残惜しさを覚えたけれど、ノクスの香りを吸い込むと眠気が一気に襲ってくる。きっと、もう悪夢は見ない。だってノクスの体温が守ってくれるから。
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