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両親は僕が普通の十歳であることを許さなかった。勉強はこっそりしていたけれど、大人のように働くことを強要されていたから、誰かに頼ることが難しい。
「おいで」
「え……」
僕の言葉を聞き終えたノクスが、おもむろに腕を広げる。戸惑い、固まっている僕のことを、自ら胸に抱き、包み込んでくれた。その熱が心へとゆっくりと染み込んでいく。
街で、同年代の子供たちが親に抱きしめられているのを見つめながら、羨ましいと何度も思っていた。両親じゃなくていいから、誰か僕のことを受け入れてくれないだろうか。
その願いを叶えてくれたのは、ノクスだった。
「子供は素直に大人に甘えておくものだ」
「……僕、普通の子供でいていいの?」
「ああ、かまわない」
「わがまま言ってもいい?」
「言えばいい」
大きな手が頭を撫でてくれる。不思議だ。おとぎ話に出てくる魔王は、人を苦しめて怖いことをする酷い人なのに。ノクスはそれとは真逆のように感じる。居心地のいい胸の中に包まれていると、涙が溢れてきて、数年ぶりに声を出して大泣きした。
そんな僕のことをノクスはずっと抱きしめてくれていて、ときどき戸惑いがちに背を撫でられる。まだ来たばかりのこの場所には、欲しかったものが沢山あって、それを与えてくれたのはノクスだ。
「あり、がとうっ」
「その顔の方が子供らしいな」
泣き顔を覗き込みながら、ノクスが微かにくっと喉を鳴らす。無表情の奥に、優しさを含む笑みを垣間見た気がしてドキリと胸が跳ねる。手で涙を拭われて、そのままベッドへと運ばれた。そうして、眠りにつくまで、ノクスは僕のことを抱きしめてくれていた。
朝起きて、隣にノクスが眠っていることに安堵する。温もりを欲して、胸に顔を埋めれば、そのまま抱きしめられて、思わず笑みが漏れた。目を閉じて、微睡みを堪能する。頭を優しく撫でられて、最初は驚いたけれど、最後は心地良さに負けてそのまま、また深い眠りについた。
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