38話 ※イソギンチャクじゃなくても

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38話 ※イソギンチャクじゃなくても

 あまりの直球に、デクスターが固まる。  だが、それでもウェンディは言葉を繋ぐのを止めない。  今夜はぶつかると決めた。   「私とデクスターさまが結ばれたのは、媚薬ポーションでおかしくなったあの日だけ。人間の姿でやり直しをしましょうって、約束したのに――それ以降、一度も」 「ウェンディ、ごめん!」  すくい上げるように横抱きにされ、ウェンディはそのまま、デクスターの寝室へと連れて行かれる。  優しくベッドに寝かせられると、覆いかぶさってきたデクスターから深い口づけを受けた。  くちゅり、くちゅりと、舌が絡まり合う音を耳が拾う。  ウェンディの息が上がってきた頃には、冷たいと思っていたデクスターの体にも熱が戻ってきたようだ。 「本当はずっと、ウェンディを抱きたかった。こうして俺のベッドに押し倒して、たくさん愛して、たくさん啼かせたいと思っていた」  はあ、と欲望の混じる吐息に続けて、デクスターが打ち明ける。   「でも……ウェンディに嫌われるんじゃないかと、怖かった。俺は、情けない臆病者だ、本当にごめん」  デクスターがウェンディの胸に、顔を押し付ける。  すっかりデクスターの熱が移ったウェンディの体に、冷たいデクスターの髪が心地よい。  いまだ湿ったままのそれを、ウェンディはそっと撫でた。  ウェンディが悶々としていたように、デクスターも思い悩んでいたようだ。 「怖かったって、どうして? 私がデクスターさまを嫌うなんて、あり得ないのに」 「これを見ても、そう言える?」  デクスターがバスローブの前をはだけ、ずしりとした肉棒を取り出した。  半立ちしているが、つるりとした先端以外は、まだほとんど皮の中にいる。  ウェンディが、モザイク無しに人間の男性器を見るのは初めてだ。  これまではキノコだったりイソギンチャクだったり、人間のものとは形が違っていた。 「これが、男の人の……」 「淫魔のときのほうが、よほど可愛げがあった」  心なしか、しょんぼりしているデクスター。  ウェンディがこれを見て、ガッカリすると考えていたようだ。 「そんなことないですよ、とても可愛いですよ」  デクスターを励ますように、ウェンディは手を伸ばし、いつしか二本のイソギンチャクにしたように、ヨシヨシと亀頭を撫でてやる。  ぐにょぐにょしていたイソギンチャクと違い、それはしっかりと張りがあって肉感があった。   「デクスターさまの、気持ちいい触り方を教えてください。私、それを覚えたいです」 「……ウェンディ、もう、その台詞だけで勃つ」  言葉通り、皮の中からデクスターの本体が現れた。  ぐっと持ち上がり、そそり立った肉棒には、メキメキという表現が似合いそうな血管が浮いている。  デクスターは段差がついている部分をこすり、顔を赤くしてごにょごにょと自白した。 「ここを、指に引っかけるように、扱いてもらうと気持ちがいい」 「こうですか? それとも、こうかしら?」 「ん、っふ、それ、どっちもキく」  ウェンディが手首を回転させて、亀頭ごとこすりあげると、途端にデクスターの声に艶がでた。   「気持ち悪く、ないか? こんなグロテスクな……」  息を荒げつつ、デクスターがウェンディの心配をする。  ウェンディにしてみれば、キノコもイソギンチャクも皮つきの男性器も、同じだ。  どれもデクスターの体の一部だから。 「気持ち悪くないですよ。私、どんな姿のデクスターさまだって、愛しいんですから」 「本当に? 淫魔じゃなくなったはずが、こんなに猥らでも?」  デクスターが下唇を噛みしめるから、ウェンディはどきりとしてしまった。  それはどちらかと言うと、ヒロインがするポーズなのではないか。  どうやらデクスターは、人間の男性器の形状だけでなく、肉欲に抗えない己にも、嫌悪感を抱いているようだ。   「デクスターさまは、いろんなことに悩んでいたんですね」  情報社会を生きた前世のウェンディは、ちょっとネットで検索すれば、どんな知識も容易く得ることができた。  魔物姿のデクスターとの性体験だって、そのおかげで成し遂げられたのだ。  だが、童貞のまま雪山に20数年も封印されたデクスターは、性の一般知識から遠ざけられたまま今を迎えた。  自分の男性器が人と比べてどうなのか。  他の男性の性欲がどれほどのものなのか。  指針になるものが何もなく、比べられるのは淫魔だった頃の己だけ。  まったく当てにならない比較対象に、どうしていいのか分からず、自然とウェンディとの夜の営みを避けてしまったのだろう。 「気づいてあげられずに、ごめんなさい」 「俺が悪いんだから、ウェンディは謝らないで」    ぎゅうと抱き着いてきたデクスターが、顔を埋めたウェンディの肩口でさらなる自供をした。 「ウェンディとしたことを思い出して、毎晩、自慰をしていた。それが、3回や4回出した程度では治まらなくて、俺はおかしいんじゃないかと悩み始めて……そうなると、何もかもが疑わしくて……ついには淫魔だったせいなんじゃないかと、自己否定の深みにはまってしまった」 「そうだったんですね」  さすがにウェンディも、一般的な男性の一日当たりの自慰の回数は、把握していない。 「でも、デクスターさまがそれだけしても、体調に問題がないのならば、大丈夫なのではないでしょうか?」 「ウェンディは分かってない」 「何をですか?」 「今度からその回数を、ウェンディが受け止めるってことを」  頭を持ち上げ、ウェンディの表情を覗き込んできたデクスターの眼は、怖いほど真剣だった。   「今夜もさんざん自慰をして、出し切ったと思ったけど、ウェンディに触ってもらったら、もう復活してしまった」    ぐりっとデクスターが押しつける下半身には、ギンギンになったものがある。  イソギンチャクよりも芯があり、筋肉質な肉棒は、ウェンディの股にこすりつけられ、さらに昂ってきたようだった。 「ウェンディが、これの餌食になってしまう。大切にしたいのに、優しくしたいのに、昼と夜の俺は別人みたいだ」  美しい紫色の双眸が、ふっと翳った気がして、ウェンディは腕を伸ばすとデクスターの頬を捕らえ、そこにキスをする。 「元気を出してください。駄目かどうか、やってみないと分かりませんよ?」 「正気か、ウェンディ? 俺の話を聞いても、これの相手をするつもりか?」 「私は腕利きの錬金術士なんですよ。もし何かあったとしても、その状況に適合したポーションを制作するのは、お手の物なんです」 「……正直、ウェンディとしたい。これまでたくさん、気持ちよくしてもらったお返しを、ウェンディに受け取ってもらいたい」  デクスターが舌を伸ばし、ウェンディの鎖骨の上を滑らせた。  それだけで、ウェンディの体は快感を拾い、ぶるりと震える。 「感じる、ウェンディ? どこが気持ちいいのか、全身くまなく調べさせて」 「は、ぁん、デクスター、さまっ」  ウェンディの指の腹から舐め始めたデクスターは、皮膚の薄い場所を狙って、ねっとりと舌を這わせる。  肘の内側、脇の下、肩口、鎖骨のくぼみ、首筋――。 「ん、あ……あ、ふ……っん」  時折、ちゅうと吸い上げると、ウェンディの肌が赤くなる。  白い肌に咲く花を愛でながら、デクスターは性感帯を探る。 「キレイだ、ウェンディ。水色の髪に青い瞳、どこか静謐なイメージのウェンディが、火照って桃色に変わっていくのがたまらない」  デクスターの視線が、ウェンディの顔からゆっくりと下がって、たっぷりと母乳をたたえた乳房へ移る。 「ここも触りたいけど、今はキャメロンのものだから。いつかまた、可愛がらせて」  胸を通り過ぎ、脇腹をつたって臍に辿り着いた舌は、チロチロと縦穴をほじる。  そこはウェンディの性感帯の中でも、特に敏感だったらしく、がくがくと無自覚に腰が動いた。 「あっ、あっ、そこは……ひぃん! や……あ、ん」 「ウェンディの孔は、どうしてこんなに可愛いんだろう」  舌なめずりをしたデクスターは、下腹にたくさんのうっ血痕を残しながら、和毛の中に隠れる花芽に焦点を合わせた。
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